日本ケーブルテレビ連盟は2010年11月16日~17日、「放送通信融合時代のケーブルテレビ―完全デジタル化以降の戦略を探る―」をテーマにトップセミナーを開催した。ケーブルテレビ業界の経営陣がそろうイベントに、KDDIの小野寺正代表取締役会長(当時は代表取締役社長兼会長)が登場し、ケーブルテレビの現状の分析とケーブルテレビへの期待を述べ、もっと連携を進めたいとラブコールを送った。

全国規模のNTTグループの脅威

 小野寺氏は、ケーブルテレビのホームパスが既に約90%(4400万世帯)に達しており、NTTグループのFTTHのカバー率にほぼ匹敵する魅力的なアクセス網と位置づける。その一方で、多チャンネル放送のシェアに触れた。加入者の絶対数は増えている一方で、2005年と比較してシェアは2%落ちて60%になった。FTTHによる多チャンネル放送(RF放送やIPTVの合計)のシェアが既に10%弱に達している。ここをどう見るかが、ケーブルテレビ業界とKDDIに共通する課題とした。

 NTTグループが提供するFTTHについて、試算を例示した。仮に200万契約の増加が3年間続くと、3年後には2000万契約に達する。この状態で、フレッツ光と放送系サービスのバンドル化が進めば、多チャンネル市場においてもNTTグループのシェアが増大することは間違いない。地域独占で安定した放送需要に支えられてきたケーブルテレビのビジネスモデルが変わり、全国規模で展開するNTTグループとの競争への対応が必要な時代に入り、ケーブルテレビが培ってきた地域力をどう競争に生かしていくのか、重要になる。

 NTT東西地域会社が2010年11月2日に展望を公表した電話網(PSTN)のIP網へのマイグレーションについて、ケーブル業界へ与えるインパクトを述べた。「今の電話料金のままでいいので、すべての電話網のアクセス回線をFTTHに変えるという意味。必ず来ることであり、最長でも今から15年しか猶予がない」とした。

 光の道の議論にも触れた。タスクフォースの議論で、ケーブルテレビ網もFTTHと同等であると既に整理されている一方で、残り10%の議論に関連して、「自らある程度広げていくという姿勢を示す必要がある。そうしないと、すべてNTTということになりかねない」と警告した。ユニバーサル基金にも触れ、「現状はすべてNTT東西だけが受け取っている。一方でブロードバンドも恐らく将来、ユニバーサル基金の対象になる。受け取る立場にもなれる。そうなると、互いに協力して減らそうという健全な議論になる」という。

戦略的パートナーとしてKDDIを選んで欲しい

 ケーブルテレビの持つ通信キャリアにない魅力として既に700万の有料多チャンネル放送の優良な顧客を抱えることという。小野寺氏は世帯ARPUを引き合いに出す。J:COMの月7726円に対しフレッツ光が5740円(個人ARPUだがKDDIの携帯電話が5410円)と高額となっている。今後どれだけ継続してサービスを提供できるか、新しい価値を追加していけるかが課題という。もう一つの強みとして、コミュニティチャンネルを含めた「地域力」を挙げた。「通信事業者は全国統一のサービスであり、地域ごとのサービスはほとんどない」といい、ケーブルテレビの強みがそこにあるという。

 一方、課題として各ケーブルテレビ事業者が、個別にNTTと競争している状況を挙げる。NTTグループが巨額の広告宣伝費・販売協力金をつぎ込む中で、ケーブル側がバラバラでは競争にならない。NTTグループはほぼ統一したカスタマーサービスを提供するのに対しケーブル側がばらつきがある。転居時の対応を例に、各局のバラバラな状況が競争上不利になることを説明した上で、「地域力を発揮することは重要だが、その一方で一つのサービスに見えるようにしないと競争が厳しくなる」と指摘した。プライマリー電話、100Mbps以上の高速ブロードバンド、VODなど各局ごとにサービスの提供状況が異なる状況をどうするか、など課題を提示した。さらにNTTに負けない技術開発も必要となる。

 こうした状況で、NTTに対抗するためには「ケーブルテレビ業界の結束と、戦略的パートナーとの連携が必要ではないか」と提案した。そのうち、結束については日本ケーブルテレビ連盟がその役割を担えばよく、KDDIとしても最大限協力するという。そして、「戦略的パートナーとして、KDDIを選んで欲しい」と述べた。NTTグループが競争相手というのはケーブルテレビとKDDIにとって共通であり、両者がもっと連携することで日本の情報通信の活性化につながると思いを熱く語った。