総務省「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の「プロバイダ責任制限法検証WG」は2010年11月30日、第2回の会合を開催した。会合では関係者ヒアリングが行われ、日本音楽著作権協会(JASRAC)、日本レコード協会、コンピュータソフトウェア著作権協会、ユニオン・デ・ファブリカンの4団体が意見を述べた。

発信者情報開示手続きの簡素化を要望

 JASRACでは、Webサイトに違法に掲載された歌詞と楽曲ファイルの検出のために終日クローリングし、データベースと照合して楽曲判定まで自動で行うシステムを使っているという。2002年10月から2010年10月末までにJASRACが実施した「侵害情報の送信防止措置」では、約49万件のファイルの削除を通知し、このうち約46万件が削除された。この間に通知したプロバイダーの数は453、侵害停止サイト数は約6982サイトに上る。削除を求めたファイルの内訳は、歌詞が48.8%、音声・演奏ファイルが44.1%で、歌詞が約半数を占めた。

 JASRACはプロバイダ責任制限法(プロ責法)を受けてISP(インターネット・サービス・プロバイダー)らが運用しているガイドラインについて、被害者が侵害情報の特定をしたり、発信者情報をISPに開示させるために訴訟を起こす必要があったりするなど、権利者に対する負担が大きい点を「不合理である」と問題点を指摘した。自動化している権利侵害コンテンツの検出も、最終的にISPに削除を通知する際には、権利関係情報とのヒモ付けなど手作業で行う作業があり、手間がかかる。「JASRACのような権利者団体でさえ目の前の権利侵害に対応するだけで精一杯。ましてや個人や小さな事務所が独自に権利侵害に対応するのは難しいだろう」と、負担の大きさを強調した。また、違法コンテンツの発信者が特定できないことによる「逃げ得」を許さないためにも、侵害防止と発信者情報開示のバランスが重要と訴えた。

 日本レコード協会は、著作権侵害ファイルの検索と削除要請に莫大なコストをかけている権利者側と、侵害ファイルの流通で間接的に収益を得ているISPとの間に「耐え難い不公平」があるとした。現行のプロ責法では、ISPが権利侵害を知らずに流通させた侵害情報による損害について、ISPには賠償責任がないとしている。日本レコード協会はISPが違法コンテンツ送信防止のための措置を講じていない場合は、この免責を受けられないことを明記すべきだとした。また、違法コンテンツを流通させている発信者に関する情報開示請求の手続きに時間がかかり、開示手続きが完了するよりも前にIPアドレスの割り当て記録が削除されたケースを取り上げ、こうした問題が再発しないようにプロバイダーに対して手続きの簡素化と、IPアドレス割り当て記録の一定期間の保存を義務付けるよう求めた。

稀なP2Pの建設的利用、商標侵害は激減

 コンピュータソフトウェア著作権協会は、ファイル共有ソフトの問題点について利用実態の調査など交えて説明した。同協会が2009年10月2~3日の24時間かけて行ったクローリング調査によると、「Winny」や「Share」によって流通するコンテンツのうち、合法と思われるものは一つもなかったという。この結果から「P2P技術については、『技術は悪くなく使い方の問題』という意見があるが、実質的には合法コンテンツの流通にはほとんど使われていない」と指摘した。

 ブランドの知的財産権保護のための活動をしているユニオン・デ・ファブリカンは、オークションサイトやショッピングモールサイトにおける商標侵害事案への対策状況について報告した。商標侵害について、2002年以降からこれまでに約70万件の削除依頼を行ったという。現在ではプロバイダーの自主パトロールが有効に機能しており、ある海外有名ブランド1アイテムについての汚染率(総出品数中に商標権侵害物品が占める比率)は、2003年の80%以上に対して2009年には1.38%まで激減した。海外では汚染率が95%以上のサービスもある中、優秀な水準を実現できていると評価した。

構成員からは開示手続きの簡略化に慎重な意見も

 ヒアリング後に行われた構成員による討議では、「現行のプロ責法でも、権利侵害が明らかな場合はISPの判断で発信者情報を開示することができる。諸外国では基本的に訴訟が前提となっており、それよりは一歩進んだ内容」と、JASRACや日本レコード協会が主張する発信者情報の開示手続きの簡略化について慎重な姿勢を示す意見があり、それに対し特に反論はなかった。