「なぜなぜ5回」。この言葉を聞いたことがある方は多いだろう。「なぜを5回繰り返せ、そうすれば真の原因または根本原因に行きつく」という教えを指す、製造業ではかなり有名な言葉である。

 問題の原因を掘り下げる取り組みを「なぜなぜ5回」と誰が名付けたのか、私は調べてみたことがある。ある本には、日本電装(現・デンソー)の社内で言われ始めたと書いてあり、別の本には、かんばん方式の生みの親として有名な大野耐一氏により命名されたとあった。多くの方がご存じのとおりトヨタグループで言われ始めたことだけは確かなようだが、今となっては、誰が言い始めのたのかは分からなくなっているようである。

 そんな「なぜなぜ5回」にまつわる話がある。昨年、私が「なぜなぜ分析」の社内研修を実施させていただいた米国系企業でのことだ。担当者が「なぜなぜ分析」研修の承諾を得ようと米国人の上司に打診したところ、「『なぜなぜ5回』ではないだろうな」と釘を刺されたという。

 幸いにして、私の研修は「なぜなぜ5回」ではなく「なぜなぜ分析」なので受注できたのだが、この話から分かったことは、米国で「なぜなぜ5回」に否定的な空気があるということである。その理由は、多くの企業(そして多くの講師)で「5回」という回数にばかりこだわった論理的でない分析が横行しているからなのだという。

5回ぐらい繰り返せという精神論が独り歩き?

 回数ばかりにとらわれてしまうと、論理的につながらない「なぜ」を繰り返してしまうことは実際によくある。例えば、製品不良の原因追求をしているのに「顧客から催促された(から)」などと原因を挙げてしまうような場合だ。

 たぶん、初めに「なぜなぜ5回」を名付けた人は、「『なぜ』を5回くらい繰り返すつもりで分析せよ」と精神論的な意味を「5回」に込めたのではないだろうか。だが「5回」という言葉が独り歩きしてしまったようだ。

 この「5回」は、特定業種における経験則から設定された回数であることに注意するべきである。様々な業種・業態でなぜなぜ分析を指導してきた経験から言うと、確かに自動車部品会社の場合には狙いどころにたどり着く必要回数は「5回」が当てはまるようである。特に、鉄の塊を削ったり、穴を開けたり、切ったり、曲げたりといった加工工程で発生した不良原因の追究の場合に言える。

 しかし、狙いどころに行き着くまでの回数は、ほかの業種・業態ならばまったく異なる。発生するメカニズムの複雑さの程度により異なるとも言える。私が「なぜなぜ5回」ではなく「なぜなぜ分析」を掲げるのは、「5回やりさえすればよい」という誤解を招かないためなのである。

 では、個々の現場で「なぜ」の深さはどのように定めるべきか。それは、次回説明します。

(次回に続く)

小倉 仁志(おぐら ひとし)氏
マネジメント・ダイナミクス 社長
小倉仁志(おぐら ひとし)氏の写真 1985年東京工業大学工学部化学工学科卒。デュポン・ジャパン(現デュポン)合成樹脂事業本部入社。エンジニアリング・プラスチックス事業部の技術営業として各種プラスチックに関する技術課題の解決支援(設計、加工、検査)に従事。1992年から日本プラントメンテナンス協会にてトータル・プロダクティブ・メンテナンス(TPM)などの指導に従事。なぜなぜ分析のルール化、体系化に取り組む。2005年より独立し現職。著書は『なぜなぜ分析10則 真の論理力を鍛える』(日科技連出版社)など。
マネジメント・ダイナミクスのホームページ
http://management-dynamics.co.jp/