政治家の世界でも実業の世界でも、筋の通らない話がまかり通っていることが珍しくない。企業でいえば、トップの経営方針から現場の業務方針までが一貫せずどこかでプツリと切れていることがよくある。例えば、トップは「革新し続けて成長する」方針を打ち出しているのに、現場では誰もリスクを取らず既存の商売や方針を守ることに専心しているケースだ。それを誰も指摘しないような企業の現場では、議論をしても経験や感覚による意見の出し合いに終始してしまうことが多い。

 こうした企業では、先輩社員が若手社員に仕事を教える時の説明も論理的ではない。若手社員は理屈や根拠が分からないまま、規則や習慣に従い仕事を遂行していく。そのような若手社員は業務ルールの根拠が分かっていないので勘所が分からず、ちょっとした変化が起きた時に、どのように対処していいのか判断できない。当然、ほかの企業と比べて不良やトラブルが多くなる。

 皆さんの職場はどうだろうか。

 経験や勘も大事ではあるが、「理詰めで」あるいは「筋道立てて」考える論理的思考も大事である。全員が論理的に考えることができるようになれば、コミュニケーションの質も上がる。理詰めで取り組みが進むようになり、職場や会社の基盤も揺るぎないものに変わっていく。

理詰めで考えるツール「なぜなぜ分析」

 そこで、理詰めで考える習慣を組織的に定着させる、またはそのきっかけになるツールとして「なぜなぜ分析」をお勧めしたい。「なぜなぜ分析」とはどのようなものか、簡単な例を挙げよう。

上司「なぜ、売り上げが下がったのか?」
部下「○×製品の注文数量が減りました」
上司「では、なぜ○×製品の注文数量が減ったんだ?」
部下「お得意様の□○社からの注文数量が減ったからです」
上司「なぜ、□○社からの注文数量が減ったんだ?」
部下「う~ん。分かりません」
上司は「それを聞いてくるのが、お前の仕事だ!」

 営業所にありがちなやり取りだが、この上司のように「なぜ」を繰り返して狙いどころまでたどり着こうとするのが「なぜなぜ分析」である。

 なぜなぜ分析は、災害やクレーム、不良、故障、ミスといったトラブルに対して行われることが多い。だが、「作業時間がかかり過ぎる」「システム上の情報と実際の在庫量が合わない」といった、現場レベルの課題にも適用できる。

 コツの1つを紹介しよう。次の「なぜ」の例を見ていただきたい。

事象:「財布を落とした」

なぜ:「レジで財布をポケットから出した」

 理屈が合っているかどうかをチェックするには、後ろから読み返してみることだ。すると「レジで財布をポケットから出した(から)財布を落とした」になる。

 後ろから読めば、「なぜ」は筋が通っていないと分かる。このように注意しながら「なぜ」を繰り返していくのが、「なぜなぜ分析」であり、決して思いつくままに「なぜ」を並べればよいというものではない。

 本連載ではこうした「なぜなぜ分析」の注意点を説明していく。

次回に続く

小倉 仁志(おぐら ひとし)氏
マネジメント・ダイナミクス 社長
小倉仁志(おぐら ひとし)氏の写真 1985年東京工業大学工学部化学工学科卒。デュポン・ジャパン(現デュポン)合成樹脂事業本部入社。エンジニアリング・プラスチックス事業部の技術営業として各種プラスチックに関する技術課題の解決支援(設計、加工、検査)に従事。1992年から日本プラントメンテナンス協会にてトータル・プロダクティブ・メンテナンス(TPM)などの指導に従事。なぜなぜ分析のルール化、体系化に取り組む。2005年より独立し現職。著書は『なぜなぜ分析10則 真の論理力を鍛える』(日科技連出版社)など。
マネジメント・ダイナミクスのホームページhttp://management-dynamics.co.jp/