英国とフランスの携帯電話サービスにおいて、規制当局が消費者保護を目的とした監視体制の強化に取り組んでいる。日本でも端末購入時の分離プランの導入や、SIMロック解除の議論が盛り上がるなど、消費者保護は関心を集めている。2009年のEC指令の改正をきっかけとした英仏の規制強化の取り組みを紹介する。


八田 恵子/情報通信総合研究所 主任研究員

 2010年6月から7月にかけて、英国の規制庁Ofcom(オフコム)とフランスの規制庁ARCEPはそれぞれ、通信サービスの消費者契約に関する当局の方針を示す重要な発表を行った。その方針とは、通信サービスの早期解約金を不当に引き上げようとする事業者の慣行を正そうとするもの。背景にはEU(欧州連合)の2009年規制枠組みにおける消費者保護の拡充がある。以下では2009年に改正されたEC(欧州共同体)指令のポイントと、それに従った英国とフランスでの取り組みを紹介する。

 顧客獲得競争が激化するにつれ、事業者はいったん加入した顧客が容易に事業者を変更できないように様々な手段を取る。その中には消費者の流動化を妨げ、競争を抑制するものもある。そこで消費者保護の観点から欧州では、2009年に「ユニバーサルサービス・消費者権利指令」の一部が改正された。端末利用条件や加入契約の条件に関する説明義務などが明確化された。消費者契約に関しては新規条項の追加や以前の条項の拡充があり、各国規制機関の監視強化が求められている。

 指令ではその前文(24)で、今回の改正のポイントの一つとして、(1)SIMロックなど端末利用に関する制約、(2)中途解約で発生する支払い─について契約書に明文化すべきであるとしている。表1に第20条における契約関連条項の拡充内容をまとめた。

表1●ユニバーサルサービス・消費者権利指令(2009/136/EC)における消費者契約に関する条項
表1●ユニバーサルサービス・消費者権利指令(2009/136/EC)における消費者契約に関する条項
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 改正指令では第30条「事業者変更の容易性」によって顧客流動性の確実化を目指している。事業者は新規契約において消費者に24カ月以上の拘束を強制してはならないとし、同時に契約期間が12カ月以下となるサービスを設けるルールが追加されている。解約条件や解約プロセスに事業者変更の阻害要因となる条件、つまり顧客が解約しようとすることを妨げるような条件を盛り込むことが禁じられる。

 以上に挙げたような消費者契約規制は、EC指令の中で正式に認められたもので、各国はこれに沿って監視体制の強化を求められる。