アクセンチュア IFRSチーム
テクノロジー コンサルティング本部
財務・経営管理グループ コンサルタント
芦田 琢治

[Question14]
現在開示している情報だけで、IFRS(国際会計基準)が求める情報開示条件を満たすことはできるのでしょうか?

 IFRSでは、セグメント情報を「マネジメントアプローチ」という考え方に基づいて区分し、開示することを求めています。マネジメントアプローチとは、経営上の意思決定や業績評価を行うために、経営者が企業を事業の構成単位(セグメント)に分別する方法を基礎とする考え方を指します。

 マネジメントアプローチに基づいて情報を開示すれば、財務諸表の利用者は経営者と同じ視点で企業の実態を見ることができます。企業はこのアプローチを可能にするために、企業活動の実態にできるだけ沿った形でセグメントを区分することが求められます。

 現在開示している情報だけで、IFRSが求める情報開示条件を満たすことができるかどうかは、その会社が採っている開示方針がマネジメントアプローチにどれだけのっとっているかによります。企業はIFRSと照らし合わせて、現在採用しているセグメントの区分方法を再評価する必要があります。その上で、セグメント別に財務情報を個別に開示することになります。

 IFRS基準書では、IFRS第8号(事業セグメント)でセグメント情報開示について規定しています(「Q2 IFRSは全体として、どのような体系なのか?」を参照 )。日本では、会計基準の策定主体である企業会計基準委員会(ASBJ)が2008年に、企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」を公表しています。

 企業会計基準第17号は、IFRSへのコンバージェンス(収斂)の一環として策定されたもので、2010年4月1日以降に開始する事業年度から適用されます。IFRSの適用を待たずして、日本企業はマネジメントアプローチへの対応を迫られることになります。

セグメント情報の決定

 IFRSに沿ってセグメント情報を作成するためには、以下の二つのステップを経る必要があります。

  1. 企業の構成単位である「事業セグメント」を識別する
  2. 集計基準、量的基準に従って「報告セグメント」を決定する

事業セグメント

 事業セグメントとは、企業の構成単位を指します。IFRS第8号では、下記のA~Cのすべてに該当するものとしています。

A) その活動から収益を稼得し、費用を負担する事業活動に従事するもの(同一企業のほかの構成単位との取引に関連する収益および費用を含む)

B) 企業の最高経営意思決定者が、当該セグメントに配分すべき資源に関する意思決定を行い、またその業績を評価するためにその経営成績を定期的に検討するもの

C) それについて分離した財務情報を入手できるもの

 つまり事業セグメントとは、企業が内部的に業績評価や意思決定を行う事業の単位であり、企業の内部組織構造に基づいていると考えられます。

報告セグメント

 企業が定めた事業セグメントは、集計基準および量的基準にのっとって集約化します。事業セグメントを細分化しすぎると、作成した財務諸表が利用者に有用な情報となり得ないからです。

 IFRS第8号では、事業セグメントを集約するための集計基準を定めています。以下のA)~E)の観点から見て、複数の事業セグメントの経済的特徴が類似していると判断できる場合、それらのセグメントを一つのセグメントに集約できます。

A) 製品およびサービスの性質

B) 生産過程の性質

C) 当該製品およびサービスが販売提供される顧客の類型または種類

D) 当該製品を配送しまたは当該サービスを提供するために使用する方法

E) 該当する場合には、例えば、銀行、保険または公共事業の規制環境の性質

 さらにIFRS第8号では量的基準を定めています。報告セグメントとして、下記A)~C)のいずれの条件も満たす必要があります。

A) 外部顧客への売上高およびセグメント間売上高もしくは振替高の双方を含むその報告収益が、すべての事業セグメントの内部および外部からの収益合計額の10%以上である

B) その報告利益または損失の絶対額が、以下のいずれかの大きい方の10%以上である
(1) 損失を報告しなかったすべての事業セグメントの報告利益の合計額
(2) 損失を報告したすべての事業セグメントの報告損失の合計額

C) その資産がすべての事業セグメントの資産の合計額の10%以上である

 つまり、該当するセグメントが提供する商品の生産・販売・サービス提供の過程や内容が類似しており、対象とする顧客に類似性がある場合は、同じセグメントとして集計できます。また、財務諸表上での数値的な規模が全体の10%以下である場合は、開示は不要となります。