インテルは半導体メーカーであり、パソコンやモバイル製品に組み込む部品を提供する会社という印象が強い。そのインテルが最終製品の設計まで行っているのが、教育市場向けパソコン「クラスメイトPC」シリーズである。インテルが教育市場に取り組む狙いと今後の事業展開について、同社事業開発本部 公共事業統括部 教育事業開発部長の竹元賢治氏(写真)に聞いた。(聞き手は日経ニューメディア記者、西畑浩憲)

インテルがクラスメイトPCに取り組む狙いは何か。

写真●インテル 事業開発本部 公共事業統括部 教育事業開発部長 竹元 賢治氏
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 ICTを活用する能力や批判的思考力、問題解決力、コミュニケーション力などの「21世紀型スキル」を育成する教育プログラムを提供する取り組みの一環として、クラスメイトPCを開発している。教育分野とのつながりを強めることで、次世代の技術者育成に貢献するのが狙いだ。クラスメイトPCを使って育った人材がインテルの社員という形で直接貢献しなくても、パソコンの利活用が社会全体に浸透・普及することで、長期的に当社に良い影響をもたらすと考えている。あくまでCSR(社会貢献)活動の一環として取り組んでいる。

具体的な取り組み内容は。

 クラスメイトPCは、人材育成のためのプラットフォームとして位置付けており、ワールドワイドで60カ国以上、シリーズ累計で200万台以上を出荷している。現在4世代目のモデルを提供中で、インテルが基本デザインを設計し、各地域のメーカーにライセンス供与している。2種類のラインナップがあり、一つはクラムシェル型のネットPCに近いシリーズ、もう一つはタッチパネル対応液晶ディスプレイを搭載し、画面を回転して畳むことでタブレットPCとして使えるシリーズだ。

 画面サイズや搭載するCPU、OS、通信機能などは各地域のニーズに合わせて提携メーカーがカスタマイズして提供する。日本では2009年から提供を開始した。2010年7月には東芝と共同開発した「CM1」が同社から国内向けに提供されており、総務省のフューチャースクール実証実験にも採用されている。

教育現場に求められるICT環境とはどういうものか。

 ICTの活用度合いによって異なり、のような段階で変化すると考えている。日本は現在3段階目で、今後は4段階を目指して生徒1人が1台のパソコンを持ち、デジタル教科書や教材の開発・普及が進むだろう。

図●教育のICT環境と日本の状況
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フューチャースクールの事業仕分けでは、生徒1人1台のパソコンは不要で、パソコン教室に1クラス分そろえておけば良いという意見も出た。

 従来の教科書や教材はそれぞれ自分のものを使っている。今後すべての教科でデジタル教材を利用するようになったとき、パソコン教室では運用が間に合わなくなる。今後、個人の学習進度/学習履歴に合わせた新しい勉強方法に対応したり、思いついたときに使いたい、気になったことをすぐに調べたいといったニーズに利便性を損なわずに応えたりするには、生徒1人に1台のパソコンが必要だ。

 費用対効果にシビアなビジネスシーンに置き換えれば理解しやすいかもしれない。昔は部署で1台のパソコンを共用していたかもしれないが、今はそれぞれの社員が自分専用に割り当てられたパソコンを業務に利用している。流れとしては教育でも同じだ。

60カ国以上で提供しているというが、どういう地域で取り組みが進んでいるのか。

 ポルトガル、トルコ、ブラジル、グアテマラ、マレーシア、オーストラリア、マケドニア、ルーマニア、アルゼンチン、モロッコ、スペイン、ロシア、ベネズエラといった国で、生徒1人に1台のパソコンを普及させる取り組みが進んでいる。中でも新興国が国力を速やかに向上させるための手段として、積極的に投資を行っている。10年で人材が育ち、その人材が国の経済を引っ張っていく。