教育の情報化については、2010年11月15日に行われた事業仕分けで、総務省の「フューチャースクール事業」が廃止判定されたという話題が記憶に新しい。このテーマについてはここ1年間、総務省で議論が進む「光の道」構想における代表的なアプリケーションの一つとして、教育分野を担当する文部科学省も交えた取り組みが活発に行われてきた。この分野における政府、総務省、文部科学省の立ち位置を理解するために、それぞれの取り組みを整理した。

政府の動き

 2010年5月11日に、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が「新たな情報通信技術戦略」を決定した。戦略では教育分野における重点施策として、情報通信技術を活用することで(1)子ども同士が教え/学び合うなど、双方向で分かりやすい授業を実現する、(2)教職員の負担を軽減する、(3)児童生徒の情報活用能力を向上させ、21世紀にふさわしい学校教育の環境を整備する――などが盛り込まれた。6月22日には、同戦略の工程表がIT戦略本部で決定され、短期(2010~11年)、中期(2012~13年)、長期(2014年)ごとに求められる各府省の具体的な取組を示した。

高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)
IT戦略本部「新たな情報通信技術戦略」

 2010年6月18日に閣議決定した「新成長戦略」では、子ども同士が教え合い、学び合う「協働教育」の実現など、教育現場における情報通信技術の利活用によるサービスの質の改善や利便性の向上を全国民が享受できるようにするため、FTTHなどのブロードバンドサービスの利用をさらに進めることなどが盛り込まれた。

新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ~

総務省の動き

 2010年度概算要求で、総務省は「ICT利活用型教育の確立支援事業」として、新規に10億円の予算を計上した。

総務省 予算・決算
「平成22年度 総務省所管予算概算要求の概要」

 ところが2009年11月に、総務省が概算要求に盛り込んだ「ICT利活用型教育の確立支援事業」が、事業仕分け第1弾の対象となる。行政刷新会議による審議の結果、同事業は廃止判定を受けた。

内閣府 行政刷新会議
行政刷新会議 事業仕分け第1弾
2009年11月13日 行政刷新会議ワーキンググループ・配布資料
2009年11月13日 事業仕分け評価結果・議事概要(第1会場)

 2009年12月、総務省は「ICT利活用型教育の確立支援事業」の2010年度予算(案)への計上を見送った。一方で、文部科学省と連携してフューチャースクール推進事業を実施するための「ICTを使った『協働教育』の推進」という項目で、10億円を新規に計上した。

「平成22年度総務省所管予算(案)の概要」

 2009年12月22日、原口一博総務大臣(当時)が、ICT分野における成長戦略「原口ビジョン」を公開した。ここでブロードバンドサービスの100%普及のための施策の一つとして、「フューチャースクールによる協働型教育改革」を指示した。具体的な取り組みとして、2015年にデジタル教科書を全ての小中学校全生徒に配備することや、2020年にフューチャースクールの全国展開を完了することを盛り込んだ。

総務省 「原口ビジョン」

 2010年4月27日、原口一博総務大臣(当時)が、ICT分野における成長戦略「原口ビジョンII」を公開した。その中の「ICT維新ビジョン2.0」における取り組みとして、(1)2010年度よりフューチャースクール推進事業を推進し、2020年までにフューチャースクールの全国展開を完了すること、(2)2010~12年度には情報通信機器やデジタル教材を活用し、児童・生徒が互いに学び合い教え合う「協働教育」や、児童・生徒一人ひとりに応じた個別教育の実現についてガイドライン化を行うこと、(3)これに基づき全国展開を計画的に推進すること――を明記した。また2010年度より「教育クラウド」の構築を進め、2012年度には教育現場に加えて校務への活用を開始し、2015年度までには学校運営の状況についての評価を行える体制を整備するとした。

総務省 「新しい成長戦略 原口ビジョンII」

 2010年5月24日、総務省はICT環境の構築や授業における具体的なICTの利活用方法などについて検討し、ICTを利活用した協働教育推進のためのガイドライン策定を目的に「ICTを利活用した協働教育推進のための研究会」を開催した。(1)学校におけるICT環境やネットワーク環境の構築、(2)協働教育を推進するための授業におけるICTの利活用方法、(3)ICTを利活用した学校と家庭の連携方法、(4)協働教育プラットフォーム(教育クラウド)の活用方法、(5)その他ICTを利活用した協働教育を推進するための方策――をテーマに、検討が行われた。

「ICTを利活用した協働教育推進のための研究会」の開催

 2010年8月6日、総務省は「フューチャースクール推進事業」の実証研究(『東日本地域におけるICTを利活用した協働教育の推進に関する調査研究』および『西日本地域におけるICTを利活用した協働教育の推進に関する調査研究』)について、請負先と実証校を発表した。東日本地域をNTTコミュニケーションズが、西日本地域を富士通総研が請け負い、それぞれ5校ずつ計10校で実証実験を行うとした。

「フューチャースクール推進事業」の実証研究に係る請負先と実証校の決定

 2010年8月、総務省はフューチャースクール推進事業の大幅拡充による「協働教育」の推進を目的に、2011年度予算概算要求に28.7億円を盛り込んだ。計画では、前年度のフューチャースクール推進事業の成果を踏まえて、新たに中学校や高校、特別支援学校を含めた40校を実証実験の対象校として追加した。また、文部科学省が実施する「学びのイノベーション事業」(予算概算要求額:18億円)と連携して実施することも予定に入っていた。総務省が情報通信技術面を、文部科学省が教育用コンテンツ/指導方法の開発や教員の研修支援など、ソフト・ヒューマン面をそれぞれ担当し、教育の情報化に向けた取組みを推進する計画だった。

「平成23年度総務省所管 予算概算要求の概要」

 2010年11月15日、総務省が2011年度概算要求に盛り込んでいた「フューチャースクール推進事業」が行政刷新会議の事業仕分け第3弾の対象となり、廃止判定を受けた。仕分け人による評価では、「フューチャースクール推進事業」は昨年度の事業仕分けで一度廃止と判定された「ITC利活用型教育の確立支援事業」の看板を付け替えたものに過ぎず、仕分け結果を無視しているとして批判が集中した。また、実施主体についても教育現場の声を十分に吸い上げられる文部科学省が担当すべきで、総務省はそこに協力する形が望ましいと結論づけた。

行政刷新会議 事業仕分け第3弾
事業仕分け詳細と評価結果 - 11月15日 月曜日 再仕分け(1日目)