◆今回の注目NEWS◆

年金機構職員と社保庁OB逮捕、入札情報漏えい容疑(共同通信、10月15日)

【ニュースの概要】 警視庁は、官製談合防止法違反の疑いで日本年金機構の職員を、競売入札妨害の疑いで旧社会保険庁OBを、それぞれ逮捕した。同機構が発注した年金記録を照合する業務の入札をめぐり、内部情報を業者に漏えいした疑い。

紙台帳等とコンピュータ記録との突合せ業務の入札に関連した機構職員の逮捕について(日本年金機構、10月14日)

【ニュースの概要】日本年金機構職員が、紙台帳等とコンピュータ記録との突き合わせ業務の入札に関連して、入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反容疑で警視庁に逮捕されました。


◆このNEWSのツボ◆

 今回は、少し異色なコラムになってしまうかもしれないが、重要な話題だと思うので御容赦いただきたい。

 前回の本稿で触れた年金機構の入札問題だが、ついに逮捕者が出て警視庁が家宅捜索に入る事態となった。

 確かにこれだけ大きな金額の入札であるから、その公正さが厳しく問われるべきことはいうまでもない。しかし、なんとなく判然としないものが残るのも事実である。

 日本経済新聞の記事にもあるように、当初、情報漏えい先として報道されたのは3社であり、この点は年金機構の発表でも明らかにされている(日本年金機構の報道発表資料)。

 しかし、結局逮捕者が出た会社を除いた入札案件については、競争上の優劣を左右するほどの影響はないという理由で、落札は有効とされており、作業はすでに開始されている(日本年金機構の報道発表資料)。

 少なくとも逮捕者の出た2社以外も、「適切」とはいえない情報を事前に入手して入札に臨んでいるのであり、これらの入札結果をそのままにして、刑事事件にけりがつけば一件落着ということで、本当に問題はないのだろうか。

 この事業は、今後数年間にわたり1000億円単位の予算が投入されるとされており、「消えた年金問題」解決の決定打のように扱われてきた。言葉を換えれば、入札側の企業にとっては、今後に「山のような」発注が控えているわけである。

 その入札のスタートの段階で逮捕者まで出す騒ぎになっているわけだから、今後の入札作業が、公正な上にも公正、透明な上にも透明に進められなければならないのは言うまでもないだろう。

 そういう中で、本件が、不届きな2人の逮捕者による犯罪ということで片付けられてよいのかどうか。見方によっては、「とかげのしっぽ切り」のように見えなくもない。年金問題は、今日の日本国民の一大関心事項であり、また、投入される国費も巨額である。それゆえに今後の事業が適切に進められ、今回のようなことがないよう、今後の推移を見守っていく必要があるだろう。

安延 申(やすのべ・しん)
フューチャーアーキテクト社長/COO,
スタンフォード日本センター理事
安延申

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後,コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト社長/COO,スタンフォード日本センター理事など,政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。