インド最大手の携帯電話事業者であるバーティ・エアテルは、クウェートのザインからナイジェリアなどアフリカ15カ国の携帯電話事業を買収した。急成長を遂げているインド市場で最大の加入者数を擁する業界トップの同社がなぜあえてアフリカ市場に参入したのか。事業買収の背景や今後の展望について解説する。


松本 祐一/情報通信総合研究所 研究員

 インドの携帯電話事業者バーティ・エアテル(以下、バーティ)は2010年6月、アフリカ市場第2位にあるクウェートの携帯電話事業者ザインからアフリカ15カ国の市場(ザイン・アフリカ傘下)を107億米ドルで買収した(図1)。これによりバーティは加入者数ベースで世界第5位の携帯電話事業者グループに上りつめ、グローバル規模で事業を展開するボーダフォンやテレフォニカなどと肩を並べる存在となった。

図1●バーティ・エアテルの新旧体制
図1●バーティ・エアテルの新旧体制
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 急成長を遂げているインドの携帯電話市場でバーティは最大の加入者数を有し業界トップの座にある。しかしながら、年々過熱する料金競争の下で同社は業績停滞という厳しい経営局面を迎えている。バーティはこうした状況下で伸び悩む国内事業を補完するため、近年成長の勢いを増しているアフリカ市場に新たな活路を求める決断をした。

加入者は増加するも業績は横ばい

 インドの携帯電話加入者数は、既に中国に次ぐ世界2位のポジションにある。2010年5月時点で加入者数は6億1753万に達し、純増数も2010年に入ってから毎月1600万~2000万という高い増加ペースを維持している。一方で普及率は50%を超えたばかり。巨大な成長の余地を残しているといえる。

 こうした状況のなか、バーティの2010年1~3月期業績は、加入者数では前年同期比で36%アップを記録したものの、総売上高は同2%増と微増にとどまった。携帯電話サービス収入に限ると同0.3%減とマイナス成長で、純利益は同8%減(表1)。もはや加入者数の増加に比例した売り上げ、利益の伸びが望めなくなっている。

表1●バーティ・エアテルの2010年1~3月期業績数値(米ドル-インドルピー換算額については1ルピー=0.022ドルで算出)
表1●バーティ・エアテルの2010年1~3月期業績数値
米ドル-インドルピー換算額については1ルピー=0.022ドルで算出。
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 バーティの業績を停滞せしめているのは、インドで勃発している激しい料金競争である。10以上の事業者が乱立し、成長市場の中で一人でも多くの加入者を獲得すべく各社が値下げ合戦を繰り広げている。さらに2009年には秒課金プランも導入され、競争は激化する一方だ。バーティ自身も積極的な値下げを実施してきた結果、加入者数は堅実な成長を遂げているもののその果実が値下げによって相殺されてしまう、といったジレンマに陥っている。事実、1分平均通話料金やARPU(1人当たり月間平均収入)は前年同期と比べて20%以上も下落した。こうした厳しい現実が、さらなる成長を模索するバーティのアフリカ市場進出を決定付けたといえよう。