今回は、「キックオフをそつなく迎えてはいけない」「ユーザーに遠慮してはいけない」など、「キックオフ」と「関係者対応」という2つの場面における、5種類の禁じ手を解説しよう。

キックオフ:キックオフをそつなく迎えてはいけない

 プロジェクトの開始に当たって開かれるキックオフミーティング。それまでにまとめたプロジェクト計画書の内容を基に、開発するシステムの概要、プロジェクトのスケジュール、ユーザー部門への協力依頼などをする。

 このとき、「プロジェクト計画書もまとまったことだし、ミーティングもそつなく無難にこなそう」と考えるPMは少なくないだろう。

 だがそれではいけない。この時点で、ユーザー部門とITエンジニアから成るプロジェクトメンバー同士が、お互いに他人のように接している状況だと危険だ。「プロジェクトが始まってから、ユーザーとITエンジニアの間で、コミュニケーション上の食い違いが起こりやすい」と、インフォコムの細田昌弘氏(GRANDIT事業本部 GRANDIT事業部 部長)は話す。「キックオフミーティングが始まるまでに綿密かつ本音のコミュニケーションを図っておくことが大切だ」(同)。

 細田氏が、コミュニケーションの綿密度合いが十分かどうかの目安にしているのが、ユーザーから「これならばプロジェクトを進められそうだ」といった言葉が出るかどうかだ。その言葉を引き出すために、プロジェクトの目的や進め方についてユーザーとひざを交えて話し合い、互いに納得しておくのだ。

 プロジェクトの進め方については、「この作業は先延ばしにできない」など、進捗管理上のポイントを説明して、スケジュールを守れるか、守るにはどう進めていったらよいかを議論する。システムに盛り込む機能の選定やスケジュール調整などで判断に迷ったときに、よりどころとなる基準についても、話をつけておくとよいだろう。

 みずほ情報総研の百井 勝氏(法人ソリューション第1部 システムコンサルタント)は、開発担当のPMとしてキックオフミーティングに参加するとき、決定していないことを、あえて伝えるようにしている。「都合の悪い情報をPM自身が出すことで、メンバーも抵抗感なく、悪い情報を出してくれるようになる」と、効果を語る。

キックオフ:「始まったばかり」とのんびりしてはいけない

 始まったばかりのプロジェクトの雰囲気は、「時間はまだ十分ある」となりがちだ。しかし、のんびりしていてはいけない。「スタート段階で納期を守る意識が現場に根付いていないプロジェクトは、往々にして遅延する」と、富士通の亀田氏は話す。メンバーに気を緩めさせてはいけないし、PM自身も気を緩めてはいけないのだ。

 メンバーには、初めから作業の納期順守や報告を徹底する。「作業をする前にPMやリーダーに必ず確認を取ったり、作業の手戻りなどの悪い情報はすぐに報告をさせたりすることを、早い段階から現場に根付かせることが大切」と、みずほ情報総研の百井氏は話す。

 PM自身ものんびりしてはいけない。リーダーやメンバーへの指示やフォローの仕方を、スタート段階で見極めておく。「やるべきことを伝えれば自分で手順を考えて作業できるITエンジニアもいるし、作業内容を細かく伝える必要があるITエンジニアもいる」(サインポスト 取締役 金融システム事業部長 西島康隆氏)からだ。こうしたメンバーごとの特徴を把握しておけば、指示したのに予定通り成果が出ていない、といった事態を回避できる。

 体制の見直しも早い段階で済ませておきたい。「役割や割り当てる作業の見直しは、プロジェクト開始後1カ月以内にするのが大切。その間に何もせずにいると、プロジェクトが遅延していく可能性が高い」と、TGIフィナンシャル・ソリューションズの坂下美香氏(SIビジネス部 カスタマーサポートチーム 主任)は話す。作業の進捗状況や、会議などでのやり取りを踏まえて、要員の入れ替えなどを判断する。

 JBエンタープライズソリューションの吉田博昭氏(SI事業部 第一開発部 ディレクタープロジェクトマネージャー)は、「プロジェクトで重要なパートを担当するには、やるべきことは何か、先を見越してどのような対策を講じればよいかの見極めが必要だ。それができる人材を早期に見つけて重要なパートに配置できるかどうかで、プロジェクトの成否は決まる」と話す。