「これがプロマネの定石だ」「この対策で間違いないはずだ」---。そう考えて取った行動が、思いもよらぬ危機を現場にもたらすことがある。「やってはいけないこと」を肝に銘じ、プロジェクトを成功に導こう。

 「正直言って、青井さんが立てたスケジュールと体制ではきつかったです。計画段階で相談してもらえれば、もう少し余裕のある計画を提案できたと思います」。NTTコムウェアの青井智史氏(保険共済ビジネスユニット 課長)は、プロジェクトマネジャー(PM)になりたてのころ、あるチームリーダーから言われたこの言葉を、今でも忘れられない(図1)。

図1●問題ないと思ってやったPMの行動が危機を招く
図1●問題ないと思ってやったPMの行動が危機を招く

 その言葉を聞いたのは、当時担当していたプロジェクトで、設計工程の完了を区切りに開いた飲み会の場。夜も更けて3次会へと突入していたときだった。そのリーダーはそれまで、ひと言も愚痴をこぼしたことはなかった。設計工程を無事に終えた安堵感と深酒の力で、口を突いて出てきたリーダーの本音に、青井氏は驚いた。

 プロジェクトのスケジュールと体制は、青井氏自らが、過去の経験を踏まえて計画したものだった。開発するシステムの規模や納期などを基に、要件ヒアリングの期間やレビューの回数を決定。作成した計画をリーダーに示し、作業を指示していた。

作ったスケジュールは過酷だった

 「スケジュールや体制は自分で作り、それに沿ってリーダーに仕事を進めてもらう」。このとき青井氏がやったことは、PMの役割としてごく当然のことのように見える。青井氏自身も、メンバーとしてプロジェクトに携わっていたとき、PMからスケジュールを渡され、それに沿って仕事を進めていた。「PMの仕事は本来そういうものだと、そのころは思っていた」(青井氏)。

 しかし結果として、自らの判断で作ったスケジュールは、実際には過酷だったことになる。戸惑いを隠せない青井氏は、そのリーダーに、何が問題だったのかを尋ねた。

 理由は、そのリーダーが担当するチームのメンバー構成にあった。協力会社から派遣されてきたメンバーとは、それまで一緒にプロジェクトを進めたことがなかった。設計工程が始まったところ、仕事の進め方や設計書の記述レベルなどのすり合わせに手間取り、思うように作業が進まない。慣れていれば1人でできるはずの作業も、2人で取り組まなければならなかった。そんな状況の中で、リーダーはスケジュールに間に合わせていたのだ。

 「実際に作業を担当するリーダーやメンバーとひざを突き合わせて話し合い、問題なくできるとみんなが思えるスケジュールに仕上げていく必要があった」。青井氏はこの出来事から、「PMは1人でスケジュールを立ててはいけない」ことを学んだ。

 それ以降、青井氏はPMとして計画を策定するとき、仮で作成したスケジュールを、リーダーやメンバーと時間をかけて検討するようになった。実現できるかどうか、リスクがないかどうかを話し合い、スケジュールや体制を修正し、プロジェクトを始めている。

 10年以上たった今、青井氏は、周りからも一目おかれるベテランPMとして、活躍を続けている。