プロジェクトマネジメントの人材育成では、上司から部下へどんなメッセージを伝えていけばよいだろうか。私見を述べれば、決してぶれることのない行動原則を繰り返し伝え、自発的な行動を促すための「愛のつぶやき(ぼやき?)」をしつつ、「見守っているよ」というメッセージを送り続けることだ。その底辺にあるのは信頼関係にほかならない。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP


 プロジェクトマネジメントの人材育成には、いろいろな考え方や方法があります。今回は、筆者が実際に部下を育てた経験を踏まえながら、プロジェクトマネジメント人材をどのように育てていくのかをさまざまな観点から考えてみたいと思います。賛否両論あるでしょうが、プロジェクトマネジメントができる人材を育てる上での参考にしていただければ幸いです。

マネジメントチームとしての心得を伝える

 私はPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)のリーダーとして、私に初めて付く部下には、最初に必ずPMOの目的や存在意義を徹底的に教え込みます。主に3つのポイントがあります。

 1つめは、「PMOの一番の役割はプロジェクトメンバーが気持ちよく作業をできる環境を作ること」。これはPMOメンバーとしての行動原則の1つです。その理由は、このコラムで何度も書いている通りです。

 2つめは、「PMOの仕事はWBS(Work Breakdown Structure)にすべて記載されているわけではなく、自ら問題を探し出して解決していくことも仕事だ」ということ。この話は、特にシステムエンジニア(SE)やプログラマーの仕事しか経験したことがない部下に言っています。SEやプログラマーは、WBSに基づいてスケジュール通りに所定の作業を完了させることが主な仕事ですが、プロジェクトマネジメントの仕事ではその考えを捨ててほしいからです。

 3つめは、特にコンサルタント経験者などに対して言うのですが、「PMOは組織としての機能であり、決して個人技ではない」ということ。つまり、お互いがカバーしあいながら、PMOの機能を提供し続けなければならないという意味です。

 次に話す点としては、「このプロジェクトを通して、PMOとして何をどこまでできるようになりたいか」を部下と納得いくまで話し合います。例えば、「進捗会議を独力でファシリテートできるようになる」だとか、「プロジェクトのリスク管理について、リスクの洗い出しから予防策・対応策の立案、モニタリングまで、関係者を巻き込みながら推進できるようになる」といった具体的な目標を確認します。

問いかけ続ける「プロジェクトの目的は?」という行動原則

 PMOメンバーとしての最初の指導は上記のようなことですが、実際に部下がPMOとしての業務をある程度まわせるようになってきたら、次はプロジェクトの目的を徹底的に意識させています。様々なタイミングで、「このプロジェクトの目的は何だっけ?」とメンバーに問いかけるのです。

 なぜかというと、ある程度仕事を回せるようになると、自分で仕事に対していろいろなアレンジをしてみたり、自分独自のやり方で問題を解決しようとするからです。その行為自体には、もちろん何の問題もありません。ただし、ときに手段が目的化してしまい、プロジェクトの目的から外れてしまう事態が起こります。

 そんな時、「このプロジェクトの目的は何だっけ?」と問いかけ、今のやり方や成果物が本当にプロジェクトの目的達成に役立つのかを意識させるようにしています。この問いかけを繰り返し聞かされると、PMOメンバーはプロジェクトの目的と自らの作業を常に照らし合わせ、最適な選択をできるようになっていきます。常に「プロジェクトの目的達成(成功)」を目指すのも、PMOメンバーとしての行動原則の1つと言えます。