本格的な“情報爆発”時代を迎え、企業や社会における情報活用戦略は大きく変わろうとしている。並行して、情報システムの構築・運用手法も“所有から利用へ”と確実に変化している。いずれもが、テクノロジーの進化によってもたらされている。クラウドコンピューティングの最新動向と、取り組み方について、ITリサーチ最大手、米ガートナー リサーチの主席アナリストであるエリック・ニップ氏に聞いた。(聞き手は志度昌宏=ITpro

様々なITベンダーが、クラウドと銘打った製品・サービスを投入してきた。利用企業の側も、既存のアウトソーシング環境を「プライベートクラウド」と呼んだりしている。

 様々な「クラウド」の定義が存在することが、市場の混乱を招いている。最大の犯人は、米オラクルや米IBM、独SAPといったITベンダーだ。彼らは、これまでの製品やサービスを中身はそのままに、「クラウド」の名前を付けて売り出している。

 ガートナーは、クラウドはコンピュータをサービスベースで活用するためのスタイルだと定義し、次の五つの要件を満たすことを条件にしている。(1)インターネットの技術を使っていること、(2)スケーラブルであること、(3)エラスティック(伸縮性)であること、(4)シェアドサービスであること、(5)従量制であること、だ。

オラクルは先頃、「Exalogic Elastic Cloud」と呼ぶ新しいシステムを発表した(関連記事)。

 Exalogicは、クラウドというよりもむしろメインフレーム的な製品だ。エラスティックの面で劣るのではないだろうか。従量制ではないことも、ガートナーの定義からは外れる。Exalogicを導入すれば、例え使用量が少なくても返金されることはないからだ。

 だからといって、Exalogicに価値がないといっているわけではない。オラクルに多大な投資をしてきた企業が、既存資産を統合するなどには有効だろう。また企業にサービスを提供したいサービスプロバイダーが、そのインフラとして使うこともあるだろう。

ITベンダーの定義が様々ななかで、クラウドに正対しているベンダーはあるか。

 米マイクロソフトは他社とは異なるビジネス戦略を採っている。これまで販売してきた製品のライセンス収入を壊すというリスクを抱えているわけだが、クラウドの世界に出てきたと見ている。その一例が、「Windows Azure」という基盤から、「Dynamics」というアプリケーション、そして「Office365」というクライアントまで、クラウドの三つの層のそれぞれにサービスを用意してきたことがある。

 CSA(チーフ・ソフトウエア・アーキテクト)のレイ・オジー氏が抜けたことは、個人的には同社にとって良いことではないと思うが、伝統的な企業としては、クラウド対応では他社より一歩抜きん出ているといえる。

 また現在は仮想化ツールのベンダーとされる米ヴイエムウエアも、クラウド指向の会社になることは間違いがない。ヴイエムウエアは、ここ18カ月間に、Javaフレームワークの開発元である米SpringSourceや、分散メッセージング基盤の開発元である英Rabbit Technologies、インメモリーデータベースなどを開発する米GemStone Systemsなどを買収している。これは、IBMやオラクル、マイクロソフトなどと、ミドルウエア層でも競争し始めたことの現れだ。

 米セールスフォース・ドットコムも、クラウド特化の企業として市場の啓蒙役となっている。