IT業界でプロとして活躍するには何が必要か。ダメな“システム屋”にならないためにはどうするべきか。“システム屋”歴30年を自任する筆者が経験者の立場から、ダメな“システム屋”の行動様式を辛口で指摘しつつ、そこからの脱却法を分かりやすく解説する。(毎週月曜日更新、編集:日経情報ストラテジー

帰ろうと思っていたところへダメな先輩“システム屋”登場
ダメな“システム屋”の会話 ダメ先輩“システム屋” 「お、どうだ、苦しんでるか?」
若手“システム屋” 「いや、考えがまとまったので、今日は帰って、頭をすっきりさせてから明日コーディングの続きをやろうと思います」
ダメ先輩 「待て待て、ちょっと見せてみな」
若手 「いや、あの、画面、閉じるところなので・・・」
ダメ先輩 「なになに、ここか?」
若手 「いや、あの・・・」
ダメ先輩 「あ、これな、オレが新人の時やったのと同じロジックだな。おまえ、この変数、何に使ってる?」
若手 「いや、あの・・・」
ダメ先輩 「これ、やっちゃうんだよなー。ちょっとドキュメント見せてみな。お、これか?」
若手 「いや、あの・・・」
ダメ先輩 「ほれほれ、ここだ。これ、ミスしやすいんだよなー。おまえもやられたか。よし!今夜はオレが徹底的に教えてやる!」
若手 「いや、あの・・・」
ダメ先輩 「そうだ、缶コーヒー買ってこい。ほれ、200円!」
若手 「いや、あの・・・」
ダメ先輩 「遠慮するなって、おまえの分はオレのおごりだ!」
若手 「いや、あの・・・(お金、足りてないし・・・そもそも早く帰りたいし・・・)」

ダメな理由:自分の成長を考えていない

 私が“システム屋”と呼ぶITベンダー・システムインテグレーターの世界には、前回指摘した“性悪上司”とは違って、善意あふれる上司や先輩もたくさんいます。しかし、善意も悪いほうに作用する場合があるのです。

 上の会話は、私自身が“システム屋”の新入社員だったころの経験に基づいています。配属されて最初の1カ月こそ「親切な先輩に恵まれてラッキーだな」と思ったものの、その後すぐに「ちょっとおせっかいかな」と感じるようになり、半年後には「少し邪魔かも」と思い、1年後には「生産性の阻害要因だ」と確信するに至りました。

 この先輩は、日が沈んで夜になると、元気にオフィス内を動き始めます。仕事の話をするようなふりをしながら無駄話に興じ、そして若手におせっかいを焼くのです。悪い人ではないのでしょうが、若手の指導をしているというよりも、自分が楽しんでいるようにしか思えませんでした。

 当時とは時代が変わり、人員に余裕がない企業が増えました。この種の“自称コーチ”は激減したかもしれません。が、絶滅はしていないようです。新人など若手の教育担当を自主的に買って出る姿勢はありがたいものです。ただし、日中ではなく、管理職や上司などが帰った後の夜間にのみ活動する傾向が強くあります。しかも、相手の状況や都合にお構いなしに、自分が教えたい時に教えたい相手に“土足で踏み込む”かのように教えます。

 最も問題なのは、彼・彼女らが自分自身の成長を考えているように思えないことです。まだ入社数年目なら、新入社員などから見て親切な先輩といった印象で、人材育成にプラスに作用する面も多々あるでしょう。しかし入社10年目以上の中堅社員となれば、本来ならばもっと上を目指す必要があります。その年代になっても、自分の成長よりも若手の成長が気になるのでしょうか。

 私が直接知るだけでも、この種の人は何人もいました。30歳代半ばぐらいまでは比較的元気であることが多い彼・彼女らも、同年代の同僚たちが大きな仕事を任されるにつれて次第に元気を失い、若手に対する夜間指導も嫌みっぽく、粘着質にさえなっていきます。

 みんなが帰った後にも残って仕事をする若い女性社員に“土足で踏み込む”かのように教えようとする中年男性が、セクシャルハラスメントだと誤解されたこともありました。