写真1●ITpro EXPO 2010展示会で講演する日経BP社 電子・機械局長の浅見直樹氏
写真1●ITpro EXPO 2010展示会で講演する日経BP社 電子・機械局長の浅見直樹氏
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 景気回復への足取りが重い日本。「ジャパンパッシング(日本外し)」や「日本だけが世界の成長から取り残されている」といった論調もある中で、本当に日本の競争力は失われてしまったのか。

 「そんなことはない、日本は元気だしポテンシャルは高い。ITの力の組み合わせで新しいパラダイムを作るという発想を持つことで、我々はもっと元気になれる」。東京ビッグサイトで開催されたITpro EXPO 2010展示会の「メインシアター」で2010年10月20日、日経BP社 電子・機械局の浅見直樹局長(写真1)は「日本の製造業、復活への提言、ガラパゴスからの脱出はなるのか」と題して講演した。

 浅見氏は、2年前に初の「ITpro EXPO」を開催したときの事業責任者。製造業界、IT業界の両方に明るいため、両業界の例を引き合いに出しながら解説を行った。

日本には高い競争力がある、それほど悲観する必要はない

写真2●世界における地域別の半導体売上高のここ10年の変化
写真2●世界における地域別の半導体売上高のここ10年の変化
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 浅見氏は冒頭、世界における地域別の半導体売上高の変化をグラフを映し出した(写真2)。「10年前と比べると、半導体産業そのものはグローバルではおよそ1.5倍に成長している。2008年秋のリーマンショックで大きく落ち込んだが、現在はそこから大きく立ち直り、過去最高の半導体売上高を記録している」(浅見氏)。

 では、その中で日本はどうか。地域ごとに半導体の消費が急速に伸びているのは日本を除くアジア圏(写真2の赤色の線)。一方、日本(同青色の線)は米州(同緑色の線)や欧州(同黄色の線)と大差ない。「先進国の中では、日本の存在感は決して薄くなっていない。メディアは日本は危ない、危ないと警鐘ばかり鳴らしているが、いろんな統計データをつぶさに見ていけば、必ずしもそんなに悲観することはないのだ」(浅見氏)。

 様々な企業が日本に対して高い期待感を抱いているという事例も紹介した。その一つが日産自動車だ。日産は今年7月に新型マーチを発売した。このマーチは全量を海外で生産し、日本にはタイで生産した完成車を逆輸入する。このことから、日本の製造業の空洞化の象徴とも言われる。ところが、10月18日に開催した「2010自動車イノベーション会議」で日産のカルロス・ゴーン社長兼最高経営責任者(CEO)は、二つのポイントから日本は非常に大事だと発言したと浅見氏は紹介する。

 ポイントの一つは「エンジニアリング」。日産は今年12月に「リーフ」という電気自動車を日本で先行発売する。「こうした新しい技術を使った新しいパラダイムの自動車に関しては、日本でなければデザインできないし、日本のマーケットでまず試してみないことには、世界のマーケットの価値観が分からないということをゴーンCEOは言っていた」(浅見氏)。

 もう一つのポイントが「ものづくり」。「ゴーンCEOは、英語で話していたにもかかわらず“ものづくり”という言葉を使った」(浅見氏)。人件費などを考えると、日本で製造するとコストは高くなりがちだ。しかし、日本における品質の高さを考えたときは、一歩も二歩も世界をリードしているとゴーンCEOは発言したという。「高付加価値品を設計・製造するという観点から見たときには、日本は決して他地域に見劣りしていない」(同)。

 浅見氏は、薄型テレビの市場で世界第2位のシェアを持つ韓国LGエレクトロニクスの例も紹介した。LGエレクトロニクスは今年9月、日本市場に再進出し、5年以内に5%以上の国内シェアを目指すと発表した。少子高齢化で人口も減少に転じた日本。しかも、家電メーカーが既に数多くあって競争が激しい日本のマーケットになぜわざわざ来るのか。浅見氏によると、LGエレクトロニクスは「日本のマーケットで勝ち抜かないと世界での競争力は担保できないからだ」と説明していたという。

 10年ほど前に比べて、日本のものづくりの空洞化に拍車がかかったかというと決してそんなことはないと浅見氏は指摘する。「コストだけで戦う領域と、新しい付加価値を付けて設計・製造する領域は明らかに異なる。むしろ日本は、後者の高付加価値化で勝負できると自信を付けたのではないか」(浅見氏)。そして、日本の消費者は非常に優れた目を持っていると浅見氏は続ける。「世界の新しいライフスタイルを売るときの何かのヒントが、日本にはあるのだ」(同)。