写真1●日本経済新聞社 産業部の市嶋洋平記者
写真1●日本経済新聞社 産業部の市嶋洋平記者
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 「BCP(事業継続計画)を策定する企業は徐々に増えている。だが、本当に機能するBCPを備える企業は多くない。日頃から、有事のためのバックアップシステムや緊急連絡網を使う必要がある」---。

 2010年10月19日、ITpro EXPO 2010展示会のメインシアター「名物記者のトレンド解説」に登壇した日本経済新聞社 産業部の市嶋洋平記者(写真1)は、BCPの課題をこのように指摘した。

 BCPは、災害や事故、新型インフルエンザの流行などの事態が発生した際に、限られた経営資源で事業を継続する、あるいは目標期間内に事業を再開するために企業が策定するもの。あずさ監査法人の調査によると、2006年にBCPを策定済みだった企業はわずか15%だったが、2010年には64%まで増加した。市嶋記者は、「この4年間に新潟県中越沖地震や新型インフルエンザの流行があり、BCPを策定する企業が増えた」と説明する。

 最近の傾向として、顧客からの要求によってBCPを策定する企業も増加しているという。同じくあずさ監査法人の調査で、BCP策定の理由に「顧客からの要求」と回答した企業は、2008年には全体の31%だったのに対して、2010年では42%を占めた。また、日本経済新聞社と神戸市の「人と防災未来センター」が共同で実施した調査では、強毒性新型インフルエンザ対策の課題として、調査対象企業の50%が「取引・納入企業の対応策が不十分」であることを挙げた。「今やBCPは、自社の事業継続のためだけではなく、取引先との関係強化、関係維持のためにも必要となっている」(市嶋記者)。

 実際に、取引先企業との新規契約や契約更新の条件に、一定レベル以上のBCPを要求する企業も増えている。ここで市嶋記者は、実際に取引先から送られてくるBCPに関する質問状の例を提示した(図1)。最も代表的な質問は、「主要な事業所、組織を喪失した際の事業継続計画を持っているか」で、BCP自体の有無を確認する。次に、「被災後の情報システム、工場、事業の復旧時間」「メインとバックアップの情報システム拠点間の距離」など、BCPの内容、レベルについて聞く。さらに、「BCPの訓練結果についてレポート提出」を要求する企業もある。

図1●取引先の企業から送られてくる事業継続に関する質問状の例(出典:日経コンピュータ2007年2月5日号)
図1●取引先の企業から送られてくる事業継続に関する質問状の例
(出典:日経コンピュータ2007年2月5日号)
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図2●バックアップ系が毎週入れ替わる損保会社(出典:日経コンピュータ2007年10月29日号)
図2●バックアップ系が毎週入れ替わる損保会社
(出典:日経コンピュータ2007年10月29日号)
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 企業のBCPへの取り組みの中で、市嶋記者が特に重要と考えるのは、日頃からBCPに沿った防災訓練を実施することだという。「BCPを作りっぱなしにして、存在を忘れてしまったり、何年も更新しなかったりすると、いざというときに役に立たない」(市嶋記者)。ある食品会社がBCPに従って防災訓練を行った際、バックアップシステムにアクセスするための4文字のパスワードが分からないという予想もしなかったトラブルが発生したという。また、ある製造業の企業では、「緊急メールがスパムと判定されて受信できないことが訓練で明らかになった」(同)。

 訓練だけでなく、普段の業務で防災用のシステムを使用することも有効だとした。ある損保会社では、東京データセンターの本番システムと、千葉データセンターのバックアップシステムを、週に1回入れ替えて稼働させている(図2)。この運用は、「災害対策が強化されただけでなく、バックアップ側のセンター職員のモチベーション向上にもつながった」と市嶋記者は説明する。