大塚 弘毅
NTTデータ先端技術

 仮想化の全社導入を阻む第3の壁は、IT部門内にある「縦割り組織」である。仮想化環境では、リソースプールを大きくすればするほどリソースの利用効率が高まる。しかし、縦割り組織の弊害として、リソースプールが分断されてしまうケースが多い。これでは全社的に仮想化環境を導入したとは言えず、仮想化のメリットも十分に引き出せていないことになる。

 よく起こるのは、仮想化環境が「サイロ型」になる現象だ。しばしば指摘されることだが、仮想化環境を担当者/担当グループごとに作ったり、プロジェクトごとに作ったりするケースが実に多い。

 「今回のプロジェクトは仮想化環境でいく」といった話をよく耳にするが、こうした言葉が現場から出てくるようでは、まだ全社的に仮想化環境を導入できているとは言えない。縦割り組織の影響が色濃く表れた例である。

 さらに、仮想化環境を利用するまでの手続きが、なぜか面倒くさくなっているケースをよく見る。前回説明したように、仮想化環境では仮想マシンの調達プロセスを大幅に効率化できるはずだが、それを妨げる問題が生じている。それは、縦割り組織によく見られる「手続き主義」だ。

 新しい仕組み(仮想化)を導入するとき、それを知らない人のためにマニュアルを詳しく記述した結果、マニュアルが肥大化してしまうことがある。仮想マシンを申請するにはどうしたらいいのか、どんどん分厚いマニュアルができていき、「仮想マシンにメディアを差したいときは、どうすればいいか」を調べようと思ったら、大量のマニュアルの中から適切な方法を見つけ出さねばならない。本来なら簡単にできることが、逆に面倒くさくなっている。こうした現象も現場によりけりなのだが、実際に問題となっているところも世の中に存在する。

リソースを他のプロジェクトと共有するのはイヤ

 現場では、「リソースを独占したい」という言葉もよく聞かれる。仮想化環境では、各プロジェクトがリソースを共有して使うことになる。そのとき、「もしかしたら他のプロジェクトが無茶なリソースの使い方をして、うちのプロジェクトに悪影響が出ているのでは」といった心配をする人が間違いなく存在する。仮想化環境を全社的に導入できた企業でも、こうした不安を解消できないとリソースプールを分割するような事態になってしまう。

 全社導入した仮想化環境を崩す要因として、安くて性能もいいコモディティーサーバーの存在は無視できない。実際によく起こるのは、せっかく仮想化環境を全社導入したのに、それを使うより「コモディティーサーバーを買ったほうが安いし、開発・運用とも今まで通りだし、楽だ」と考え、コモディティーサーバーを別途導入してしまう問題だ。プロジェクトごとに購入したほうがリソースを把握しやすいし、いくらお金が出ているのかも分かりやすい。計画を立てる側としては申請しやすいメリットがある。

 しかし、すでに仮想化環境があるのに、独立した物理サーバーを買い足すのは、仮想化のメリットを打ち消す行為だ。この行為を認めてしまうのは縦割り組織の弊害といえる。さらに、電気代、サーバー設置スペースのコスト、廃棄するときのムダなどを各プロジェクトできちんと管理しているのだろうか。ランニングコストの削減効果をしっかり把握すべきことは「第1の壁」の回で述べたが、プロジェクトの中では管理できていない傾向がある。当たり前のように使っている開発機などは特にそうである。