大塚 弘毅
NTTデータ先端技術

 「仮想化は本当に安いのか?」――。経営層にこう思われてしまうと、仮想化環境の全社導入は進まなくなってしまう。これが仮想化を阻む第1の壁だ。その背景には、仮想化技術に対する経営層からの過剰な期待感がある。

 仮想化技術を導入するときに、経営層はたいてい「トータルでシステムのコストが安くなりますよ」という話を再三聞かされる。そう話すのは仮想化ベンダーだったり、ハードウエアベンダーだったり、システムインテグレーターだったりするかもしれないが、仮想化すればとにかく安くなるという言葉を何度も聞いている。

 では実際にふたを開けてみて、初期導入コストの見積もりを見たらどうかというと、これが予想外に高い。思ったほど安くなってないのだ。

初期導入コストが予想外に膨らむ理由

 なぜかというと、まず「快適な仮想化環境」を実現するための定番コンポーネントがコストアップ要因の筆頭に挙げられる。

 この快適な仮想化環境を実現するための定番コンポーネントとは、例えばテンプレートから仮想マシンを簡単に増やす仕組み(デプロイツール群)であったり、仮想マシンの電源を入れたまま別のサーバーに移動させるライブマイグレーション機能だったりする。また、HA(ハイアベイラビリティー)機能もその1つに含まれる。仮想化環境を構築する際には、だれもが「あると便利」と考えるものばかりだ(図1)。

「あると便利」な定番コンポーネントが初期導入コストを高める要因に
「あると便利」な定番コンポーネントが初期導入コストを高める要因に

 こういった機能を利用するためには、実は「共有ストレージ」がほとんどの仮想化環境で新たに必要となる。仮想マシンが複数の物理サーバー間で移動する可能性があるため、ストレージを共有しておかなければならないのだ。

 ただ、もともと物理サーバーで動いていたシステムは、その多くがサーバー単独で動いていたスタンドアローンシステムだろう。これらを仮想化環境に統合しようと考えたときに、都合よく共有ストレージを使っているかどうかというと、まず使っていない。ばらばらのストレージをすべて新しい共有ストレージで置き換えようとすると、見積もり金額が跳ね上がってしまう。

心理的に「ムダを減らせない」

 仮想化によるサーバー統合の効果についても、期待通りにいかない現実があり、仮想化導入の見積もりを高くしてしまう。

 仮想化技術を導入する際のアセスメントでは、まずシステムを統合するために必要な物理リソース量を見積もる。現行システムの稼働状況を調べてリソース使用量を積み上げ、全体としてのリソース量を割り出す。

 一般に、仮想化以前ではサーバーのリソース使用率は平均で15~20%程度とされ、仮想化してサーバー統合すると、全体のリソース使用率を80~85%に高められるとされている。この場合、計算上は必要リソース量を4分の1から5分の1にまで減らせるはずだ。

 しかし、仮想化後のリソース使用率を本当に80~85%と見積もっているかというと、やはり怖くて見積もれない。リソース不足は絶対に許されないというプレッシャーがかかり、結果としてリソースを大幅に多く見積もる過剰スペックになってしまう。これでは、経営層が聞かされていた「安さ」を実現できないのは当然だ。