大塚 弘毅
NTTデータ先端技術

 最近、仮想化ソフトウエアベンダーのマーケティング担当者と話をしたときのこと。ユーザー企業の動向について聞いたところ、「すでに多くの企業が部分的に仮想化技術を導入している。仮想化技術を使ったことがある技術者は非常に多い」という。

 だが、全社的に仮想化技術を導入しているのかと問うと、マーケティング担当者はそれを否定した。「いろいろと難しい要因がある。メリットは理解しているのだが、全社規模での導入はなかなか進んでいない」と話していた。

仮想化は“良いことずくめ”のはずでは…

 仮想化のメリットは非常に多い。無駄なハードウエアが減ることで電気代、設置場所代が安くなったり、リソースプールの統合管理により高可用性を比較的安価に実現しつつ運用管理コストを削減できたりする(図1)。良いことずくめである。

図1●経営者には“良いことずくめ”な仮想化のメリット
図1●経営者には“良いことずくめ”な仮想化のメリット

 特に経営者サイドから見ると非常に大きなメリットに映る。小規模から大規模まで、システムの規模にかかわらず、とりあえずサーバーを仮想化すれば大きな効果が得られる。しばらく運用すれば、必ず投資を回収できる技術であることは確かだ。

経営者や現場を尻込みさせるもの

 だが、これがなかなか進んでいない。もちろん、理由がある。それをここでは「仮想化の壁」と言わせてもらいたい。

 経営者の立場としては、仮想化技術は非常にメリットが多い。以前は不安視されがちだったが、最近は導入事例も非常に多くなり、「導入できるものならすぐ入れたい」と思っている。だがその後、仮想化環境の構築費用に関する見積書を見て、金額の大きさに少なからず失望してしまうケースがあるようだ。原因は、経営者が期待したほど安くないと感じること。これが第1の「仮想化の壁」である(図2)。

図2●仮想化環境の全社導入を阻む3つの壁
図2●仮想化環境の全社導入を阻む3つの壁

 また、システムの運用者、設計者、開発者にとって、仮想化は本当にうれしいものなのだろうか、という課題がある。実は、「現場が仮想化を望んでない」という話をよく聞くからだ。この第2の壁はなぜなのだろうか。

 「縦割り組織」が仮想化の邪魔をしていることもある。そもそも仮想化によって目指そうとするものと縦割り組織はなじみにくい面がある。

 次回からは、これら3つの「仮想化の壁」について、その原因のありかと壁の破り方を説明していきたい。

◆本記事は、2010年8月3日に開催された「仮想化フォーラム2010 Summer」における大塚弘毅氏の講演を再構成したものです。