経営コンサルタント
情報システムコントロール協会 東京支部 理事
日本ITガバナンス協会 事務局長
梶本 政利

 IT投資のフレームワーク(枠組み)である「Val IT」によるIT投資マネジメントのあり方を説明する本連載は、今回が最終回である。前々回はIT投資計画を作成するための10のステップを、前回は事例編として病院におけるシステム開発プロジェクトを取り上げた。

 今回はまとめとして、Val ITによるIT投資マネジメントを実践するうえで押さえておくべき五つの注意点を説明する。最後に、Val ITと対を成すフレームワークであるRisk ITに触れておきたい。

注意点1:SWOT分析と同様、思い込みは禁物

 SWOT分析をご存じの方は多いと思う。組織業務などにおける「S(Strength:強み)」、「W(Weakness:弱み)」、「O(Opportunities:機会」、「T(Threats:脅威)」を明らかにすることを通じて、分析を進める(図1)。強みをより生かし、弱みを克服し、機会を確実にとらえ、脅威を取り除くのが狙いである。

図1●SWOT分析
図1●SWOT分析

 SWOT分析の際に注意点としてよく挙がるのが、思い込みの怖さだ。「強みが状況によっては弱みとなる」「弱みであると考えていたことが、強みとして生かせるケースがある」「チャンスと思うことが実は脅威だった」「脅威としたことに正面から取り組むとチャンスを生まれる」といったケースがあり得る。「S」は常に「S」である、といった思い込みは禁物である。

 Val ITによるIT投資にかかわるポートフォリオ・マネジメントでも同じことがいえる。「価値」を確実に生み出すために情報システムを導入したが、実はそのシステムが組織に対する「リスク」を生み出すことにつながる。逆に、情報システムに関するリスク対応を確実に実施することが、企業価値の向上につながる。こうした例が往々にして見られる。

 SWOTと同様に、情報システムがもたらすリスクや価値について多角的にとらえることが肝要である。