有限責任監査法人トーマツ
エンタープライズリスクサービス シニアマネジャー
辻 さちえ

 前回まで4回にわたり、IFRS(国際会計基準)が有形固定資産プロセスに与える影響を解説した。今回から2回にわたって、IFRSが研究開発費プロセスに与える影響について取り上げる。今回は研究開発費に関するIFRSと日本基準との相違点と資産化の現状を中心に説明する。

日本基準では研究開発費をすべて費用処理

 研究開発費とは、研究開発のために費消されたすべての原価を指す。研究開発にかかわる人件費や原材料費、固定資産の減価償却費、間接費の配賦額などがここに含まれる。

 現行の研究開発費の会計処理は、「研究開発費等に係る会計基準」で規定されており、研究開発費は発生時にすべて費用処理される。現在の日本の会計基準には「保守主義の原則」、すなわち「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない」という考え方がある。研究開発費等に係る会計基準も、この考え方に基づいていると考えられる。

 日本基準に基づく実務では、特定の部門コードに集計されたすべての原価を「研究開発費」として費用計上している企業が多いとみられる。この場合の研究開発費プロセスとは費目別に計上された費用の集計プロセスを意味する。研究開発費プロセスに組み込まれる内部統制とは、費用の集計過程で組み込まれる内部統制のこととなる(図1)。

図1●研究開発費プロセスにおける日本基準の会計処理
図1●研究開発費プロセスにおける日本基準の会計処理

 前述したように、日本基準に基づく会計処理では全額費用処理されることになるため、これまで日本企業では特殊な業種を除いて、研究開発費の会計処理や研究開発費の集計過程の内部統制を議論するケースはあまりなかった。内部統制報告制度(J-SOX)に対応する際も、研究開発費プロセスをリスクが高い業務プロセスとみなし、評価対象に含めた会社はほとんどなかったと思われる。

 これに対し、IFRSでは今まで一くくりで費用処理していたものに色分けが必要となってくる。開発局面の一部について、後述する要件を満たした場合には資産計上を求めているからである(図2)。

図2●研究開発費プロセスにおけるIFRSにおける会計処理
図2●研究開発費プロセスにおけるIFRSにおける会計処理