総務省の自治体クラウド推進本部は、有識者懇談会(座長:須藤修 東京大学大学院情報学環教授)の第2回会合を2010年11月2日に開催した。当初スケジュール案では9月8日の第1回会合に続いて10月・11月に各2回の会合を持ち、11月下旬の第5回会合で報告書案を取りまとめる予定だったが、9月の内閣改造など政治日程の影響を受け、スケジュールがずれ込んでいた。

写真●総務省自治体クラウド推進本部の有識者懇談会第2回会合
写真●総務省自治体クラウド推進本部の有識者懇談会第2回会合

 自治体クラウド推進本部は、固定的な部局ではなく、政務三役と関係部局の局長級以上で構成する全省横断の体制として2010年7月に発足した。9月の内閣改造で副大臣に就任し今回が初の会合出席となった平岡秀夫副本部長は、冒頭のあいさつで「総務省を挙げて自治体クラウドを推進する」と明言。原口総務相から片山総務相に替わっても、引き続き全省推進体制に変わりがないことをアピールした。

 懇談会の事務局である総務省は、全国自治体へのクラウド導入に関する論点として、大きく4分野を挙げている。(1)標準的なパッケージソフトを使うことによりカスタマイズが制約されることの業務への影響、(2)庁舎外のデータセンターや遠距離の通信ネットワークのアクセス管理強化やセキュリティ対策、(3)ITベンダーによって異なっている住民情報などのデータ構造・表現形式の標準化、(4)委託先事業者の監査方法などのクラウド移行時の検討事項---である。

「パッケージでかなりの部分はいける」

 自治体の業務担当者の不安が大きい(1)のカスタマイズの制約については、11事業者が提供する行政パッケージソフトを210自治体で試用する「Webによる行革可能性検証」の中間とりまとめを総務省が報告。住民基本台帳、固定資産税、国民健康保険、国民年金、財務会計など10業務について、データ項目延べ1万7928に対して2839の改善要望が上がったものの、やり取りの結果残ったのは90項目だけだったという。処理機能についても延べ4983項目に対して453の要望があったが、最終的には16項目に絞られた。この結果を受け総務省は、「データ項目・処理機能ともにパッケージでかなりの部分は対応できる」と評価している。

 秘匿性が高い住民情報を扱うことから住民や自治体の関心が高い(2)のセキュリティ分野については、人口1万2000人の群馬県明和町から人口266万7000人の大阪市まで、多様な人口規模の27自治体が協力して、仮想的な専用線サービスであるIP-VPN(仮想閉域網)や広域イーサネットを介してデータセンターを利用する「ブロードバンド・オープンモデルによる実運用試験」を進めている。セキュリティと同時に、業務アプリケーションのレスポンス(応答速度)、安定性(死活監視、性能監視など)、障害時の対応体制などの運用面の方策の検討材料とする考えだ。

 (3)のデータ構造・表現形式の標準化は、「数千万円から数億円に上ることもある」(総務省)高額なデータ移行コストが自治体でのベンダー乗り換えを妨げる“ベンダーロックイン”の解消に欠かせない事項という位置づけである。総務省は2011年度(平成23年度)予算要求で、データ構造の標準モデルの構築・実証に8200万円を計上した。旧システムから新システムへのデータ移行の際に用いる「中間レイアウト」を標準化して無償で提供することで、現行システムからクラウドへの移行や、クラウドサービス間の移行の敷居を下げる狙いである。

 (4)のクラウド移行時の検討事項としては、コスト削減、業務改革、住民サービス向上の効果を比較・評価する方法のほかに、クラウドサービスの契約やSLA(サービスレベルアグリーメント)/SLM(サービスレベルマネジメント)に関する留意点、異なる業務システム間のスムーズなデータ連携を通して業務効率や住民サービスを向上させる「地域情報プラットフォーム」のクラウドでの活用などを挙げた。

現場実務に即した支援策も欠かせない

 議論で目立ったのは、自治体所属の委員から、クラウド推進の「強制力」に関する確認要望が相次いだこと。「どの程度の拘束力を持ってやるのか」(豊田麻子 広島市副市長)、「自治体にインセンティブを与える仕組みや、ある程度の強制力のあるオーソライズされた規格化が必要」(新免國夫 岡山県高度情報化顧問)、「外字の扱いを変える際に住民からの問い合わせに“こういうルールだから”と説明できる論拠がほしい」(山戸康弘 大分県商工労働部情報政策課長)といった具合である。

 すでにクラウドの利用を始めている自治体からは、「現行システムの契約期間がバラバラであるため、各市町の力の入れ具合のそろえ方が難しい」(遠藤健司 長井市企画調整課長)、「業務の標準化を巡っては業務原課と情報主管課では争いになってしまうので、異なる自治体の業務原課同士が話し合うのが一番だが、間に県が入って調整する必要があるため、これを仕組みとして体系化してほしい」(大分県の山戸課長)、「政策の自由度の向上など、クラウドを実現した先にあるものを示さないと各自治体での議論が進まない」(原田智 京都府総務部税務課長)など、現場の実課題を踏まえた指摘も多く上がった。

 法改正時のシステム改修を自治体ごとにやる必要がなくなる、業務原課でのシステム関連作業が軽減され業務効率が上がるなど、クラウドの活用がシステム投資や業務の効率化に有効との認識は共有されつつある。その半面、実際の導入現場ではスムーズに移行を進めるためのノウハウ・知見が不足しているため、不安や悩みが山積している。

 自治体へのクラウドの導入を加速させるには、現行のトップダウン型の推進策と並んで、現場の実課題を吸い上げて解消していくきめ細やかなボトムアップ型の支援策を提供できるかどうかがカギを握ることになりそうだ。