米Appleが2010年10月20日に開催した特別イベントのテーマは「Macへの還流」――。このイベントで同社は来夏にもリリースするというMac(Macintosh)の次期OS「Mac OS X Lion」を発表し、その代表的な機能を紹介した。なかでも皆をあっと驚かせたのはMac用のアプリケーション(アプリ)配信/販売サービス「Mac App Store」だ。

 スマートフォン「iPhone」やタブレット端末「iPad」のアプリ配信/販売サービス「App Store」のパソコン版という位置づけで、2011年の1月末までに現行OSの「Mac OS X 10.6 Snow Leopard」から使えるようにし、次期OSでは標準機能にする。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)やゲーム、ビジネス、ニュース、電子書籍や雑誌など、端末にダウンロードしてさまざまなサービスや機能を追加できるアプリは、iPhone普及の原動力になったと言われている。デジタル音楽販売の「iTunes Music Store」で築いたコンテンツ配信と課金の仕組みを応用し、Appleは顧客の囲い込みに成功した。今度はその成功をMacに“還流”させようという考えだ。

 新サービスで具体的にどのようなアプリが提供されるのか、まだその詳細を明らかにしていないが、同社Webサイトに掲載しているスニークピーク(先行告知)によると、「雑誌や、ゲーム、仕事効率化、音楽など、カテゴリー別に閲覧したり、検索したりでき、クリック一つですぐに購入できる」とある。

 iPhoneやiPad向けアプリと同様に、メディアやエンターテインメント、ビジネスツールといったさまざまなアプリが登場すると見込んでいるようだ。また従来のApp Storeと同様に、ユーザーの評価やスクリーンショットなども用意され、最新版がリリースされればその都度知らせ、ユーザーは複数の最新版を一括してダウンロードできるようになる。このほか、開発者が年間99ドルの開発者プログラムに登録してアプリ開発に参加すること、有料アプリの価格は自由に決められ、その7割が開発者の取り分、3割をAppleが手数料の名目で徴収するといった点も同じだ。

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アプリをMac普及の起爆剤に

 モバイル端末のOS「iOS」の成功体験をMacにももたらすというAppleのこの戦略について海外メディアはどう見ているのだろうか。例えばWall Street Journalは、Mac普及の起爆剤になるだろうと報じている。Windowsパソコンのように普及していないMacには対応ソフトが少なく、Appleは頭を悩ましてきた。そうした状況を払しょくしようとソフトを自社開発し、OSの標準機能にしたり安価で提供したりとMacの付加価値向上に努めてきた。しかしそれが結果として開発者のMac離れを招いてしまった。これに対し、iPhoneやiPadでは正反対の現象が起きている。

 2008年7月の「iPhone 3G」発売と同時に開始したApp Storeは、アプリの登録数が2年余りで30万本に達し、ダウンロード件数は70億件を突破した。iOSプラットフォームを取り巻くエコシステム(生態系)が定着し、その規模は拡大しつある。米GoogleもAndroid端末向けアプリのマーケットプレース「Android Market」を始めており、その人気は高まっているもののアプリの数はまだ10万本とAppleの3分の1にとどまっている。

 この状況はAppleにとって千載一遇のチャンス。iPhoneやiPadで築いたブランド力を生かせばシェア拡大は容易とWall Street Journalは伝えている。「世の中の95%がAppleのパソコンを使っていない状態。ゆえにAppleには大きな伸び代がある」(投資銀行のアナリスト)という。

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