複数の“場所”に集まる潜在顧客の特性に注目し、それらの場所を相関させることによって新たな需要を掘り起こす。そんな「地の利」を生かした“異次元コラボレーション”で売り上げを拡大しているのが、北海道銀行(道銀)と時間貸駐車場「タイムズ」を展開する同業界最大手のパーク24である。

 道銀は、地元の観光地としての魅力に着目。台湾から北海道を訪れる旅行者が年間20万人以上に達するところに商機を見いだした。パーク24は、駅前の駐車場に鉄道の利用者を呼び込むビジネスモデルを軌道に乗せている。

【北海道銀行】台湾の銀行カードで決済

写真1●台湾の銀行カード専用POS端末(左下赤枠内)を導入した札幌市内の焼肉店
写真1●台湾の銀行カード専用POS端末(左下赤枠内)を導入した札幌市内の焼肉店
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 「今年に入って売り上げが3割伸びた」。札幌市内の繁華街の一角、焼肉店「牛乃家」の田澤勝利店長は笑う(写真1)。増収に貢献したのは台湾からの旅行者。台湾の銀行カードで支払いができるPOS(販売時点情報管理)端末を導入したとたん、来客が増えた。といって、販促活動を強化したわけではない。店の入り口に、台湾の銀行カードが使えることを示すシールを張ったぐらいだ。「これほど効果があるとは、正直に言って思わなかった」と田澤店長は打ち明ける。

 牛乃家の増収の立役者が、道銀である。道銀とその子会社の道銀カードは2010年1月、台湾の銀行カードで預金を引き出したり、買い物や飲食などの代金を支払ったりできる「台湾ATM・SmartPayサービス」を始めた。

 道内の飲食店や量販店などに専用ATM(現金自動預け払い機)と専用POS端末を設置、NTTデータの決済システム「CAFIS」などを介して、それらを台湾の銀行の勘定系システムにつないだ(図1)。これにより、台湾の銀行口座をリアルタイムで更新できるようにした。

図1●専用ATM・POS端末と台湾の銀行システムにおける連携イメージ
図1●専用ATM・POS端末と台湾の銀行システムにおける連携イメージ
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 道銀が新サービスを始めた狙いは、低迷する地元経済の活性化だ。地銀と地元企業は、いわば運命共同体である。そこで目を付けたのが北海道の観光地としての魅力だった。最たる例が台湾からの旅行者だ。年間100万人が来日し、そのうち約23万人が北海道を訪れる。特に雪と温泉が人気だ。「台湾からの旅行者と地元のために、銀行としてなんとか貢献できないものか」(堰八義博頭取)というトップの思いに端を発する。

 台湾では日本ほどクレジットカードが普及していないため、海外旅行の際には現金を持ってくることが多かった。だが、多額の現金を持ち歩くのは危険であり、外貨両替の手間もかかる。銀行カードが使えれば、「旅行者の不安を解消できる」(道銀カードの村上則好社長)。

 新サービスの検討に取り掛かったのは2007年末のことだ。道銀のシステム部門は、勘定系システムの開発・運用をアウトソーシングしているNTTデータの技術者、台湾の銀行のシステム担当者などと、検討を始めた。接続インタフェースはどうするか、開発規模はどのぐらいになるのか、といったシステム面での課題はもちろん、台湾側の投資額の上限はどの程度なのか、契約書はどう交わすかといったことも、一つずつ詰めていく必要があった。

 道銀のシステム部門にとって、海外の銀行との共同プロジェクトは今回が初めて。システム企画部の小林裕幸部長兼シニアマネージャーは「日本での常識が通用せずに最初は戸惑った」と明かす。

システム部長、海を渡り、酒を酌み交わす

 それでも「双方にメリットがあり、かつお互いが納得できる妥協点を探った」(小林部長)。特に重要な事項を決めるときには、台湾に渡って議論を交わした。台湾のメンバーが来日することもあった。激論の後は懇親会になだれ込み、酒を酌み交わして信頼関係を築いていった。

 台湾側との交渉では、NTTデータが援護射撃した。例えば、当時NTTデータの特別顧問であった小南俊一氏(現NTTデータ・フィナンシャルコア社長)は、十数回にわたり台湾を訪問。過去のビジネス経験を生かし、道銀と台湾側の間に入って話をまとめた。

ATM設置料を払わず、ATM賃借料をもらう

 採算面でも、道銀は初期投資を抑える三つの工夫を講じた。一つめが、台湾の銀行カード専用のATMとPOS端末を導入したことだ。既存のATMやPOS端末を改修すると費用がかさむからだ。専用端末はいずれも、機能を絞り込んだ安価な製品を使った。

 二つめは、専用ATMの設置先の量販店などに、ATMの貸借料を支払ってもらうことだ。通常は銀行が量販店などにATMの設置場所の賃借料を支払うのが常識である。交渉に当たった道銀の山岸健男営業企画部調査役は、「専用ATMは台湾の人々の集客効果がある」と導入先のメリットを強調、同意にこぎ着けた。三つめは、台湾とのシステム接続にCAFISを使ったこと。NTTデータのサービスとして、システム接続を実現してもらった。

 道銀の小林部長は「新サービスの台湾でのPRを強化して利用を促していきたい」と意気込む。