「コンビニで住民票発行」「空港やゴルフ場の利用者にレジャー保険を提案」「台湾からの旅行者向け決済サービス」――。これらはIT(情報技術)を駆使して新しいサービスやビジネスモデルを創出した実例だ。いずれも今年始まった日本初の取り組みである。

 このような、業種や国境を越えて連携し、必要なら行政機関まで巻き込む、“異次元コラボレーション”の事例が最近増えてきた。投資とリスクを抑えつつ、新需要を掘り起こして売り上げを伸ばすのに最適な形の1つだからだ。企業や国の枠を越えてビジネスを始めるためにはIT活用が不可欠。それゆえ、裏方に徹することが多かった情報システム部門が“表舞台”に出て、売り上げの増加に直接貢献し、単なるコストセンターから脱却するチャンスでもある。

 異次元コラボによって、1社だけで実現するよりももっと便利な新サービスを、競合他社に先駆けて始めた企業がある。セブン&アイ・ホールディングスとNTTドコモだ。いずれも、社会環境やITの変化をチャンスととらえたのがポイントである。

 今回は、セブン&アイと自治体の異次元コラボで生まれた新たな行政サービスの全容を見ていく。セブン&アイのシステム部門のメンバーが各自治体を訪ねて回ったことで実現したこの新サービスによる増収効果は、なんと年間最大370億円程度と試算できる。

【セブン&アイ】コンビニで行政サービス

 住民票は役所窓口でなくコンビニで取得する――。ほんの1カ月ほど前、行政サービスの常識が変わった。

 これまでの常識を打ち破ったのは、セブン&アイである。同社は2010年5月末、全国1万2700カ所のセブンイレブン店舗で住民票や印鑑登録証明書を発行するサービスを開始した(写真1)。東京都三鷹市や渋谷区、千葉県市川市などの住民は、全国のセブンイレブン店舗で、住民票などを取得することができる。2011年3月までには、30近くの自治体の住民が、セブン&アイのサービスを使えるようになる予定である。

写真1●セブン&アイは5月31日から、全国のセブンイレブンで住民票を発行できるようにした(右下の住民票はサンプル) 
写真1●セブン&アイは5月31日から、全国のセブンイレブンで住民票を発行できるようにした(右下の住民票はサンプル)
(写真:中島正之)
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 新サービスにおける処理の流れはこうだ。セブンイレブン各店の多機能コピー機で住民票発行の操作をすると、該当する自治体の証明書発行システムにその要求メッセージが届く(図1)。同システムは住民票をPDFデータで送信、多機能コピー機がこれを印刷する。セブンイレブン店舗の多機能コピー機と自治体のシステムは、ネットワークを介してつながっている。

図1●セブンイレブンで住民票を発行する際の処理の流れ
図1●セブンイレブンで住民票を発行する際の処理の流れ
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