昨年、10月の前原国土交通大臣の“羽田空港ハブ発言”に続き、11月には関西国際空港への補給金が事業仕分けの対象になった。その後、橋下大阪府知事が伊丹空港の廃止を提案するなど、関空問題の行方が注目される。筆者は大阪府で知事の特別顧問として検討作業に参加してきた。今回から2回にわたってこの問題の本質を考えていきたい。
私はもともと経営コンサルタントで様々な業種を分析してきた。それに照らすと「空港」は経営が極めて難しいビジネスだ。鉄道は土地と線路と列車を同じ会社が所有・運営する。しかし空港は、土地と滑走路、空港ターミナル(売店、駐車場、ホテルなどを含む)、航空機を別々の主体が運営する。空港経営とはこれらをセットで成り立たせるための複雑な連立方程式を解く作業である。
さらに国際空港は国家の戦略投資事業でもある。外交、安全保障も視野に国としての航空・空港戦略が先決だ。空港の採算性はその上で考える。
ところが関空問題はこれまで関西の一ローカル空港の赤字問題として主に論じられてきた。最近になってやっと、わが国二つ目のハブとしての関空のあり方が問われ始めた。
本題に入る前にまず確認したいのは、「関西3空港問題」の本質は関空と伊丹の2空港のあり方、特に関空の過剰債務の問題だということである。神戸空港は、規模が関空や伊丹の5分の1以下と小さい。稼働率も90%超で高い。唯一の問題は、神戸市が身の丈を超えた投資をしたために資金が回収できないことである。これは市役所経営の失敗にすぎず、関空や伊丹のあり方からは切り離して考える必要がある。
問題はせっかく巨費を投じて作られた関空が使われていないことにある。埋め立てコストに由来する1.1兆円の債務を一民間企業にすぎない関空会社に負わせたために金利負担だけで利益が消えてしまう。そのため各種使用料金が高過ぎる上、思い切った投資もできず競争力に乏しい。また、伊丹を廃止しなかったため、国内線と国際線の乗り継ぎ客を取り込めず、ハブになれない。このままではせっかくの巨額投資が無駄になりかねない。
経済原則で廃港に向かう伊丹空港
なぜ伊丹の廃止が必要なのか。当初、国は国民にそう約束したからだ。まず環境・騒音問題と事故のリスクが大きい。住宅密集地に部品が落ちたらもうおしまいだ。
都心に近くて便利だという意見もある。確かにかつては伊丹と同様、都心に近い住宅密集地に立地した空港が世界中にあった。だが先進国ではほとんどが移転した。また騒音規制で夜間使用できないが、これも致命的である。伊丹は見かけ上は黒字だが、過去に約7000億円もの環境対策費をつぎ込み、今後も払い続けていかなければならない。決して安くて便利な空港とはいえない。
もう一つのネックは拡張余地の乏しさである。空港は工業団地やテーマパークと同じく、周辺に拡張余地があってはじめて繁盛する。伊丹には発展性がない。
エアライン不在の議論から脱却を
そもそも既存空港の使い方は、国交省や自治体の都合だけではなく、顧客である航空会社(エアライン)の動向が無視できない。国際貨物や長距離を飛ばす外国エアラインは関空を選んだ。時差や重量貨物の騒音などを考えると、24時間運用できるオープンパラレルの2本の滑走路を持った関空は魅力的である。現にフェデラル エクスプレス(FEDEX)は中部空港から関空にハブを移した。他の外国エアラインも関空からはほとんど撤退していない。
そんな中で日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)だけが関空便を減らしている。さらにJALはすでに神戸からの撤退や福岡-伊丹便の廃止を表明した。ANAは関西の3空港に飛んでいるが、これも赤字企業である。ANAのハブはあくまで羽田だ。投資は羽田と成田や、アジアの伸びゆく都市に張り付けていくだろう。
加えて、もうすぐ九州新幹線ができて、大阪-九州便が減る。航空会社はますます伊丹に投資しなくなる。地元の大阪府知事と府議会も廃港を希望している。伊丹はすでに経済原則の力によって廃港に向かいつつある。
※筆者の主張の詳細はこちらを参照
慶應義塾大学総合政策学部教授

慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省,マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。専門は行政経営。2009年2月に『自治体改革の突破口』を発刊。その他,『行政の経営分析―大阪市の挑戦