米IP Devices代表
岸本 善一

 前回はスマートグリッドにICTの技術が利用されると述べた。今回はスマートグリッドの各部分とそれに適用されるICT技術の詳細を述べる。

 まず、変電所から各家庭に至るネットワーク構築のため、「スマートメーター」とそれを支援する「フィールドエリアネットワーク」に技術や企業が集中し、多くの投資が行われてきた。2つをまとめてAMI(Advanced Metering Infrastructure:自動メーターインフラ)と呼ぶ。

 次に、家庭内の電力消費を計測・表示するネットワークとソフトウエアの会社が活発に活動をしている。いったんネットワークが完成すれば、スマートメーターにより家庭やビルから収集された膨大なデータが電力情報網に投入され、電力会社と消費者の間で通信されるようなるので、その処理に対応することが必須となる。実時間で計測された大量のデータを送信・解析・格納し、更にクエリの応じて正しく取り出して送信するという技術も重要だ。更に、少し上層のアプリケーションだが、要求・応答のサービスで電力供給を抑えることも可能になり、商業ビルなどで既に適用されているサービスが家庭にも浸透することとなる。

 アプリケーションに関して言えば、将来は電力消費データ以外のデータも含まれるようにことを想定し、スケーラビリティや拡張性を考慮して開発することが必要だ。これはインターネットの開発と発展の歴史によく似ている。IPという比較的簡単な技術を基礎としたインターネットは様々な変遷を遂げてきたが、その基礎技術は今も現在のアプリケーションを立派にサポートしている。

 では、家庭から始めて電力会社の方向にたどりながら、どのような機能や技術が必要か考察する。またそれに適用可能なICT技術についても論じる。各見出しの後にある[発電][送電][配電][消費]は、前回説明した電力網のどの領域に相当するかを述べたものである。

ホームネットワーク[消費]

家電に設置するセンサーと通信機能:家電にその電力消費量を報告させ、外部からの信号によって停止したり作動を制限したりする機能を持たせる。米国Whirlpool社は2015年までにその機能を全製品に実装する予定だ。

家電をつなぐネットワーク技術:WiFi、ZigBee、HomePlug、6LowPan、Z-Waveなどが候補である(表1)。HomePlugは家庭内の電気配線を使用するもの。そのほかは無線を利用する。この分野は電力関連の知識が無くても比較的参入しやすい。日本企業の中にも既にこの分野の製品を発売しているところがある。

表1●家電をつなぐネットワーク技術の例
ネットワーク技術説明
ZigBee短距離・低消費電力の無線通信規格
HomePlug家庭内電気配線を利用した有線通信規格
6LowPanIPv6対応の低消費電力の無線通信規格
Z-Wave短距離・低消費電力の無線通信仕様(非標準)

データ収集・統合・表示:米Googleや米Microsoftが無償ソフトウエアを提供している。北カリフォルニアに電力とガスを供給する全米最大のPG&E社は、Webサイト上で個人消費者に対し使用電力量情報を提供している。そのほか、有償で収集したデータを解析してダッシュボード形式で表示するサービスを提供する会社もある。電力消費に関する知識や電力会社との連携が必要となる可能性があるが、電力消費情報を入手できれば、独自の製品やサービスを提供することが可能だろう。情報収集・解析・表示というITの基本機能なので、日米に限らず多くの企業が既に参入している。競争が激しい分野だ。

スマートメーター[消費]

 ICTベンダーが、メーターそのものを製品として提供することは少ない。ただし、デファクト標準になりつつあるZigBeeを搭載したチップを提供するベンダーは、メーターベンダーと組みスマートメーターを提供することができる。ZigBeeは標準プロトコルで、それを各社がチップに組み込んで販売している。計測された電力消費量はスマートメーターから近くの電信柱などに設置された収集ポイントに送信される。米国ではGEやItronなど、日本では大崎電気が主なメーターベンダーである。

電気自動車[消費、配電]

 米国の標準家庭で一日に消費する電力は20kWh程度である。電気自動車をフル充電するにはそれと同程度の電力が必要と考えられている。一方、日本の標準家庭の消費電力量は約10kWhで、米国の半分である。そして現在日本には約8000万台の自動車がある。全部が一度に電気化しないまでも、今後電気自動車分野の成長は、これまでの電力事情を大きく変化させるだろう。

 電気自動車が引き起こすであろう大量の電力需要を、新たな発電所を建設することなしに満たすには、複雑なシミュレーションが必要となる。電力需要全体を予測すると同時に、電気自動車の投入によって刻々と変化する地域の電力消費の増加を計測・把握して、電力需要に応えなければならない。現在、電力需要のピークは午後早くから夕方にかけて起こり、普通夜間は需要が減少する。電気自動車の出現でこのピークが大きく変化するかもしれない。この新たな需要をさばくには、ICTの技術が不可欠だ。

 またバッテリーの充電の問題も大きい。急速充電の技術は、日本は世界でトップクラスだ。充電や放電の技術それ自体はITの及ぶものではないが、バッテリーのモニターやバッテリーに負荷がかかり過ぎるのを防ぐための制御などには複雑なソフトウエアが必要となる。

 さらに、電力不足が深刻になった場合、それぞれの変電所がカバーする地域の電力需要を把握して、まずほかの方法でその地域の需要を低下させるよう対策を講じ、それでも不足する場合は、電気自動車のバッテリーから電気を調達する(V2G:Vehicle to Grid)ことになる。このV2Gにも複雑なソフトウエアが必要だ。地域で必要な総電力量を算出し、その時点で地域にある電気自動車の数を把握し、車の状況によって調達が可能かどうかを判断する。個々の車の充電量やその車に最低限必要な電力量を概算して、調達可能な電力量を計算する。全体を統括するソフトウエア、電気自動車上の制御ソフトウエア、バッテリー上の複雑なソフトウエアが不可欠となる。