品質とサービスで勝負──。日本のITベンダーが相次ぎ中国でデータセンターを開業している。日本で培ったセキュリティ対策や信頼性向上策を売りに、安さを武器とする現地のデータセンターに挑む“日式”センターを取材した。

 「現地のデータセンターと価格競争をするつもりはない。付加価値の高いサービスへのニーズをとらえていく」。この7月、上海市の浦東地区にデータセンター「TELEHOUSE上海」を開業した上海凱迪迪愛通信技術(KDDI上海)の小川哲夫董事総経理は、こう断言する。

 小川総経理によると、競合他社のデータセンターにおけるコロケーションサービスの価格は、安いところで1ラック(19インチ=42U)当たり4000元(4万8000円)からだ。これに対して、TELEHOUSE上海での提供価格は同8000元(9万6000円)から。ちょうど倍である。

 それでも小川総経理が自信を見せるのは、「日系企業はもちろん中国企業の中にも、価格だけではなく設備や運用管理体制などを重視するところが増えている」(小川総経理)からだ。ニーズがあれば、しめたものだ。「日本と同等のサービスを中国でも提供する。サービス品質の高さでは、現地企業には負けない」(同)。

金融機関の需要を取り込む

図1●“日式”データセンターの三つの強み
図1●“日式”データセンターの三つの強み
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 運用管理サービス、セキュリティ対策、設備の信頼性。この3点において、KDDIを含む日本のITベンダーが構築するデータセンターには、一日の長がある。大手企業の基幹業務システムの運用管理を請け負うアウトソーシングサービスやホスティングサービスの経験を蓄積してきたからだ。地震をはじめとする自然災害への対策も抜かりない。これらが日本式、中国語で言うところの“日式”サービスだ(図1)。

 高品質なデータセンターへのニーズに期待するのは、KDDIだけではない。同社に3カ月先駆け、TISは2010年4月に「天津濱海高新インターネットデータセンター」を開業した。天津市郊外の濱海高新技術産業開発区に建設した5階建てビルがそれだ(写真1)。

写真1●天津TIS海泰が2010年4月に天津市に開業した「天津濱海高新インターネットデータセンター」
写真1●天津TIS海泰が2010年4月に天津市に開業した「天津濱海高新インターネットデータセンター」
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 「すでにいくつかの顧客のシステムが稼働している。商談中の案件も複数ある」。天津提愛斯海泰信息系統(天津TIS海泰)の丸井崇董事総経理は手応えを語る。「順調にいけば、初年度の販売目標である200ラックは達成できそうだ」(丸井総経理)。

 天津TIS海泰にとっての最大のターゲットは金融機関だ。「中国でも金融機関は運用管理やセキュリティ、信頼性のそれぞれについて、高品質なサービスを求める。我々は、それに応えることができる。日本のデータセンター事業で蓄積したノウハウがあるからだ」と、丸井総経理は自信を見せる。

 天津TIS海泰も、徹底的に日式にこだわった。最たる例が、運用管理体制だ。センターには、専任の技術者が24時間365日体制で常駐。技術者は全員中国人だが、「日本のデータセンターの技術者と同等の運用スキルを習得させている」(丸井総経理)。同社は日立製作所の運用管理ソフト「JP1」を使い、サーバーやネットワーク機器などを監視するサービスを提供している。

 運用管理サービスで日式に徹するのは、NTTコミュニケーションズも同様だ。同社は大手通信会社の中国電信集団が建設したデータセンターを使って、コロケーションサービスやネットワークサービスを展開。24時間365日体制の運用監視サービスや、中国語、日本語、英語の3カ国語でのサポートサービスを提供する。

 データセンターの設備やサービスについては、「データセンターの評価基準に当てはめると稼働率が99.98%を上回る『Tier3』をクリアしたものだけを顧客に提供する。そのために東京のデータセンター専門チームがサービスレベルをあらかじめチェックする」(NTTコミュニケーションズの石本孝典中国総代表)。