巨大市場への参入で成長の活路を見出す日系企業。だが、そこには少なくとも五つの壁が立ちはだかる。事業の急拡大、現地企業の台頭、IT部員不足、人材流出、海賊版ソフトといった壁に挑む日系企業10社を追う。

ファミマ、三菱東京UFJ銀行:店舗倍増をITで支える

 ビジネスの拡大にシステム対応が追い付かない。中国に進出する日系企業の多くが、こうした壁に突き当たる。初期投資を抑えるために、参入当初は拠点ごとにシステムを導入したり手作業でデータ集計したりしていたが、拠点の拡大に伴い、これらの負荷が膨らむといったケースだ。

 典型例が、ファミリーマートと三菱東京UFJ銀行だ。両社は事業の急拡大に伴い、システムの機能や運用形態を全面的に見直している。

店舗10倍増を見据え再構築

写真1●上海にある全家ファミリーマートの店舗
写真1●上海にある全家ファミリーマートの店舗
[画像のクリックで拡大表示]

 「5年半で4000店以上増やし、4500店舗体制にする」。ファミリーマートで中国事業を統括する中国便利店(開曼島)控股の原田実介副総経理は宣言する。単純計算で勤務日1日につき3店舗を出店し続けるペースだ。中国進出で他社に先行する今の勢いを、さらに加速する(写真1)。

 急速な店舗拡大に合わせて、ファミマはコンビニ業務を支える一連のシステムを再構築する。中でも目玉は、本部系システムの再構築だ。発注データの集計機能と、出店候補物件の管理機能を新しく追加する。

 集計機能については、各店舗から届く商品の発注データを集計し、それを発注先単位に仕分ける機能を実現する。現在は本部スタッフが手作業でこなしているため、「店舗が増えるといずれ業務が回らなくなる」(ファミマ本社の倉掛直システム本部システム企画開発部付部長)。集計業務を自動化できれば、店舗数が10倍に増えても問題ない。むしろ「商品を納入するまでの時間を短縮できる」(倉掛部長)。

 物件情報の管理については、出店候補の不動産物件や周辺地域の写真、物件の詳細情報を店舗開発部門の責任者と担当者で共有できるようにした。店舗開発の責任者は、担当者が現地で入力した候補物件の情報について、担当者の帰社を待たずに参照することが可能になるわけだ。これにより、責任者は出店判断を早め、物件所有者との契約交渉にいち早く臨める。「中国では、担当者がオフィスに戻るまで待っている時間さえ惜しい」(原田副総経理)。

 これらの新機能は、日本ではあって当たり前の機能だ。にもかかわらず、ファミマはこれまで、あえて実現していなかった。海外システムの基本方針が、身の丈にあった機能を整備する、といったものだからだ。「出店攻勢をかける今が、全面再構築の絶好機だ」。倉掛部長は意気込む。

システムの統合と集約を並行

 三菱東京UFJ銀行の中国現地法人である三菱東京日聯銀行(中国)は9月14日、上海市虹橋地区に新たな出張所を開設する準備を進めていると発表した。同行は7月にも広東省広州市に広州南沙出張所を開設したばかり。さらに今後、拠点数を現在の11拠点から20拠点に増やす計画だ。

 拠点倍増に備えた同行のシステム方針は、「統合」と「集約」の並行である。同行の中国拠点には2種類の勘定系システムが存在していたが、まずこれを1種類に統一した。さらに、拠点ごとにハードウエアを置いているのを、上海支店に集める。これにより「運用・保守業務を効率化する」(原田憲邦システム部長)。

 システムを統合・集約することで、「拠点が増えてもシステムを追加導入する必要がなくなる」(原田部長)。

平和堂、森ビル:競争力強化にIT駆使

 価格競争力を武器に攻勢をかける現地企業と、急成長市場に群がる外資系企業。ライバルとの競争で思うように業績を伸ばせず撤退を余儀なくされる企業は少なくない。こうした競争の壁をクリアするためにITを活用するのが、平和堂と森ビルだ。

地域トップを支えるシステム

 「約500のテナントのうち、多いときには半数を一気に入れ替える」。内陸部の湖南省で百貨店3店舗を営業する湖南平和堂の梅村宏一郎総経理助理は、こう話す。同社は近畿・東海地方でスーパーを展開する平和堂の現地法人だ。平和堂の本社のある滋賀県と湖南省が友好提携している縁から、同省に出店している。

 湖南平和堂がテナントを大胆に入れ替えるのは、移り気な地元顧客を引き付けるためだ。このテナント入れ替えにITを使う。

 テナントの入れ替えは、各店舗の1坪当たりの利益額を基に決める。店舗のPOSレジから集めた売り上げデータをバッチ処理で集計、店舗の会計システムに登録していく。このデータから、毎月の売上額、時間帯別の売上額などのランキング表を作成。下位の店舗を入れ替え対象とする。

 湖南平和堂は入居するテナントに社員を送り込み、POSレジの入力を担当させている。「ミスや不正入力を防ぐため」(梅村総経理助理)だ。

 テナント管理に加えて、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」といった接客サービスの基本を徹底させてもいる。

 こうした取り組みが奏功し、湖南平和堂は地域トップクラスの売り上げを維持している。現地企業や外資系企業の出店攻勢にさらされながらも、2010年度の売上高は21億元(252億円)に達する見通しだ(図1)。

図1●湖南平和堂の業績の推移
図1●湖南平和堂の業績の推移
写真は外観(左下)と店内の風景(右上)
[画像のクリックで拡大表示]