人口13億人という巨大市場で成長し続ける中国企業。顧客数が億単位におよぶなど、大手企業のスケールは世界でもトップクラスだ。そうした巨大企業のシステムは、どんなものなのか。大手3社の知られざるIT活用の実態に迫る。

中国移動---囲い込みをとことん嫌う

 2010年7月、中国・上海のIT業界関係者に「富士通ショック」が走った。中国移動通信集団(中国移動=チャイナモバイル)が、富士通に同社製サーバーなど500台超を一括発注したとの情報が伝わったからだ。中国移動は、NTTドコモの10倍に当たる5億5000万件超の契約を抱える、世界最大級の携帯電話会社である。

 中国移動が購入を決めたのは、富士通製UNIXサーバー「SPARC Enterprise」とストレージ「ETE-RNUS」だ。発注総額は40億円を超え、富士通の中国における獲得案件としては過去最大である。

 中国移動は、課金処理などを担う基幹システムやデータウエアハウスの動作プラットフォームとして、富士通製品を使う。中国全土に構える25カ所のデータセンターに、富士通製品を順次設置する計画だ。稼働時期は2010年内の見込みである。

自ら性能検証、優劣を判断

 中国移動は、どうして富士通製品の導入を決めたのか。最大のポイントは、製品選定プロセスにあった。

 製品購入にあたって、中国移動は公開入札を実施した。世界中のITベンダーから提案を募り、その中から最適な製品を選ぶためだ。中国移動は、入札に参加したITベンダーに対して、北京の研究開発センターに提案機種を持ち込むように指示。提案したベンダーの数だけ検証環境を構築し、各社の製品を使って自らの業務アプリケーションを走らせ、処理性能を調べた。

 中国移動が性能検証に力を入れるのは、価格性能比に優れた世界最高の製品を自力で探し出すためだ。一般にITベンダーは、自社製品にとって都合のいいベンチマーク結果を顧客に提示するが、それを真に受けない。

 富士通製品を選んだのがその象徴だ。入札にはIBMやヒューレット・パッカードなども参加しており、下馬評ではIBMが最有力とみられていた。だが、中国移動は最終的に、単体性能ではIBMの「Power Systems」に劣る富士通のSPARC Enterpriseを選んだ。性能、信頼性、価格などの総合評価で判断したわけだ。

アプリはマルチOS対応

 実はもう一つ、中国移動が富士通製品を購入する決め手になった点がある。それは、業務アプリケーションを「マルチOS対応」に仕上げていることだ。

 中国移動の主要アプリケーションは、AIXやSolarisなどの主要UNIX上であれば、改修なしでそのまま動く。中国移動は、アプリケーション開発を入札にかける際、「どんなUNIXでも動くように構築すること」といった条件を明記しているからだ。こうした、ハードの選択肢を広げるための工夫があってこそ、Solarisを搭載した富士通製品を購入できる。

 ハードだけでなくアプリケーションについても、マルチベンダーを貫く。サブシステム単位で発注先を分け、特定のシステム開発会社に依存しないようにしている。

 中国移動がハードの価格性能比やアプリケーションのマルチOS対応にこだわるのは、突き詰めると特定のITベンダーに囲い込まれるのを防ぐためだ(図1)。

図1●中国移動におけるアプリケーションの構築・調達イメージ(写真は北京本社)
図1●中国移動におけるアプリケーションの構築・調達イメージ(写真は北京本社)
価格性能比に優れた製品を調達できるように工夫している
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 世界最多となる5億5000万件超の携帯電話契約を抱える同社にとって、特定のITベンダーの製品に依存してしまうのは、あまりにもリスクが大きい。特定のベンダーに囲い込まれるのを避けるために、世界中から最適なハードの調達先やアプリケーションの委託先を選べるようにしている。

 「中国移動ほどマルチベンダーにこだわり、自分たちで性能検証までやりぬく力を持つシステム部門は、日本企業ではほとんどない」。中国移動の商談に携わった富士通の関係者は明かす。