ネットワークを新築したくても、工事をしてはいけない日がある──。中国の通信業界には、知らないと痛い目に遭う独特の規制がある。「封網」「検閲」「メガキャリア」の三つのキーワードから、現地通信事情の真実に迫る。
真実1「封網」:3日前に突然の工事禁止通告
「3日後から1週間、局内での工事を禁止します」。中国政府は国内の通信事業者に、こう通告することがある。この工事禁止期間を「封網」と呼ぶ。
封網は、中国政府が指定する重要な行事の期間中、通信トラブルを未然に防ぐためのものだ。「春節(旧正月)」や「労働節(メーデー)」といった国が決めた休日、さらには「全国人民代表大会(全人代)」のような重要な政治行事の期間中とその前後が封網となる。
封網の適用期間については、通信事業者や地域によって多少の差がある。ただ共通するのは、通信サービスを利用する民間企業の意にかかわらず、通信工事やネットワーク構築といった業務を政府が強制的に制限することだ。封網に入ると、通信事業者は、国際通信の接続口となる「国際関門局」、あるいは「中継局」や「地域加入局」の中での工事ができなくなる。
部外者は、これらの通信局舎や機械室への立ち入りすら禁止される。通信事業者は通信関連の工事作業がほとんどできなくなり、結果的に民間企業は新規のネットワーク構築サービスを受けられなくなる。
前日に突然の通告も
実際の封網の時期を見てみよう。2010年は、旧正月の2月13~19日や全人代が開催された3月の約3週間が封網だった(図1)。さらに上海万博の開催期間中の4月から10月にかけても、断続的な封網があったという。今後については、11月以降もアジア大会などのビッグイベントに合わせて封網となる可能性が高い。
封網の実施を決めるのは中国政府である。政府は多くの場合、封網の直前まで、通信事業者に実施を通告しない。
上海凱迪迪愛通信技術(KDDI上海)の小川哲夫董事総経理によると、「封網が判明するのは、これまでの経験ではたいてい3日前。短いときには前日ということもある」という。
民間企業が通信事業者にネットワーク関連の工事を依頼する際は、あらかじめ、その時期が封網に重なる可能性がないかどうかを確認しておく必要がある。重要行事の開催時期に重ならない時期を選んで計画的にネットワーク構築を進めれば、封網に振り回されずに済むはずだ。
真実2「検閲」:中国からは“つぶやけない”
グーグルが中国から撤退──。2010年3月、グーグルが中国版検索サービス「Google.cn」を停止するというニュースが世界中をかけめぐった。グーグルが、中国政府のインターネット検閲に抗議したためだ。同社は検閲の対象外である香港のサーバーで、サービスを継続している。
グーグルの撤退に象徴されるように、中国ではインターネットの検閲は当たり前だ。中国政府が設置した検閲・監視システムによって、「天安門事件」といった政治的なキーワードの検索ができなかったり、日本では普通に利用できる著名サイトにアクセスできなかったりする。
今回の中国取材の際に、本誌記者が複数のコミュニティー系サイトなどにアクセスできるかどうかを実際に試してみた。すると、トップページにすらアクセスできないサイトが見つかった(図2)。ミニブログ「Twitter」、動画共有サービス「YouTube」、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の「Facebook」、ネット生中継サービス「Ustream」などである。
ほかにも、政治問題にかかわるコンテンツを含むサイトや、いわゆるアダルト系サイトにはアクセスできなかった。検索サイトでキーワード検索すると、検索結果として表示はされるが、そのサイトを閲覧することは不可能だ。なぜかは分からないが、日本のSNSサイト「mixi」にはアクセスできた。
閲覧できるサイトであっても、画面の情報が表示されるまでに1分ほどかかるケースがあった。これも、ネット検閲が原因とみられる。一方、上海万博の公式サイトには、驚くほどのスピードでアクセスできた。