前回は、世界におけるスマートシティ建設の動向を探った。今回は、こうしたITによる都市のマネジメントに必要な三つのステップを明らかにする。「ITインフラの構築」「ログデータの付加価値化」「新サービスの創出」だ。さらに、一部の自治体で先行的に取り組まれている事例も紹介しよう。


宇都 正哲、木村 淳、高橋 睦/野村総合研究所

 スマートシティを支えるITの機能は、次の五つに分解できる(図1)。

  • エネルギー消費、交通、生産・消費などのさまざまな都市活動をセンサーネットワークで把握する
  • 取得されたデータを集約する
  • 集約したそのデータを解析・分析する
  • 分析したデータを“見える化”し人間の行動に変革を促す
  • 分析したデータを利用して都市活動やインフラを最適制御する
図1●スマートシティを支えるIT
図1●スマートシティを支えるIT
[画像のクリックで拡大表示]

 センシングにおいては、「NED(Network Embedded Devices:ネットワーク化された埋め込みデバイス)」が、都市のあちらこちらに配備される。NEDからは大量の記録データが吐き出されることになる。

 それらデータは時系列情報を持つため、都市活動をネットワーク空間に写像することが可能になる。さらには、この情報を集約し、解析・分析することで新しい価値を創造することができる。このように、あらゆる事象をインターネット上に統合しようという概念は、「Internet of Things」または「RealWorld Internet」と呼ばれている。

 こうしたITによる都市マネジメントは、三つのステップを経て実現されると野村総合研究所は考える(図2)。第1ステップは、「ITインフラの構築」だ。インターネット網の構築と、個別に構築された運営システムをつなぐ連携システムを実現する。

図2●ITによる都市マネジメントの三つのステップ
図2●ITによる都市マネジメントの三つのステップ
[画像のクリックで拡大表示]

 上下水道や、電気・ガス、交通などの都市インフラはすでに、それぞれが専用のハードウエアを持ち個別に運用されている。それらを、分野ごとに最適化すると同時に、エネルギー需要については統合的に運用し、全体最適を図るためのシステムを導入する。世界各地で進むスマートグリッドやスマートシティなどの多くは、この第1ステップにある。

 第2ステップは、第1ステップで最適化したシステムが収集する「ログデータの付加価値化」である。都市に関する膨大なログデータは、サービスを生む“情報”になる。そのために、必要なログの選択から、分析、加工・見える化、リアルタイム提供、モニタリングといったプロセスを確立しなければならない。

 ここで得られる情報は主に、企業あるいは政府/自治体向けになる。第2ステップの例には、IBMによる、膨大な自然環境のリアルタイム情報を活用した水マネジメントシステムの構築が挙げられる。