NTTドコモは、カーナビなどに向けた情報提供サービス「ドコモ ドライブネット」を2010年10月末をメドに開始する。サービスの開始に合わせて三洋電機は、NTTドコモの通信モジュールを内蔵したカーナビ「ゴリラプラス」をNTTドコモと共同開発し、製品化する。

 NTTドコモはこれまでも自動車メーカーに対してカーナビに内蔵するための通信モジュールは提供してきた。今回のゴリラプラスは通信モジュールの提供に加え、NTTドコモ自らがカーナビに情報を表示するプラットフォームを開発し、ドコモ ドライブネットとして最新の地図情報や交通情報、周辺の観光情報、ガソリンスタンドの場所とガソリン価格情報、駐車場の空き情報などの提供も手がける部分が異なる。

 交通情報はVICS(道路交通情報通信システム)に加えて、プローブと呼ばれる1万2000台のタクシーの走行データをタクシーのMCA経由で取得し、それ基に生成した精度の高い渋滞情報も提供する。NTTドコモの船本道子氏(ユビキタスサービス部 マシンコムサービス企画 担当部長)は、「乗客を乗せて目的地まで走行している時のデータを利用するので、移動速度が遅いならば渋滞しているといった情報が正確に把握できる」と説明する。乗客を乗せているかどうかはタクシーのメーターによって判断できるという。

スマートフォンにはアプリ提供

 2010年10月5日にはカーナビメーカーであるパイオニアと、スマートフォンをカーナビとして利用するための協業に基本合意したと発表した。これにより、NTTドコモが提供するXperiaといったスマートフォン上で動くカーナビのアプリケーション「ドコモ ドライブネット powered by カロッツェリア」を2010年度第4四半期をメドにパイオニアが開発し、スマートフォンでドコモ ドライブネットの情報提供サービスを利用できるようにする。

 スマートフォンのGPS機能だけでは、ビル陰やトンネル内で位置情報を正確に表示できないことがある。そのため、携帯電話機を車内で設置する専用のクレードルを開発する。クレードルには加速度センサーやジャイロセンサーを内蔵させ、加速度センサーから得た走行距離やジャイロセンサーから得た傾きを計算することで、GPSが使えない場所でも車の走行場所をカーナビに表示できるようになる。NTTドコモの齊藤丈仁氏(ユビキタスサービス部 マシンコムサービス企画 マシンコムサービス開発担当)は、「携帯電話機を本格的なカーナビとして使うためには、センサー情報が欠かせない」と説明する。

新しい通信を作り出す、高いARPUを期待

 ゴリラプラスもスマートフォン向けのアプリケーションも、カーナビを標準で装備していない普及車で使ってもらうことを狙っている。例えばゴリラプラスの市場推定価格は5万円であり、一般的なカーナビよりも比較的安価な価格を設定している。

 ただしドコモ ドライブネットの提供によって、契約者数が爆発的に増えるとは考えにくい。この点について船本氏は、「携帯電話の契約者数が飽和状態にある日本市場において、携帯事業者にとって新たな通信が発生する対象を見つけることが欠かせない。そうした候補の中で普及の可能性が高いと考えたのがカーナビの分野だ」と説明する。常に最新の地図情報が使えたり、駐車場の空きが分かったり、付加価値の高い情報を提供することで、高いARPUを獲得できると期待している。「今後電気自動車が普及した際には、ガソリンスタンドほど多くない充電スタンドを残りの電池で行ける範囲で探すことが重要になる。そうした場合、リアルタイムで通信できる強みが出てくるのではないか」(船本氏)という。

経路検索アルゴリズムなどがメーカーの強み

 また、地図情報や駐車場の空き情報といった付加情報をNTTドコモが提供することは、ハードウエアを用意できればNTTドコモがカーナビの端末を開発できる可能性がある。この点について船本氏は、「確かにハードウエアは用意できるかもしれないが、NTTドコモがカーナビを開発することにはつながらない。最短時間で移動できる道順を探索するアルゴリズムが分かりやすい例だが、専業メーカーのノウハウがなければ作り出せないソフトウエアがカーナビ開発では重要になる。今回、三洋電機やパイオニアと協業しているのはそのためだ」と述べ、カーナビに必須となる独自技術を持つセットメーカーと「Win-Win」の関係を築くことができることを強調した。