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 2010年はLTEの商用化など、モバイル関連では歴史に残る年。そして、日本で初めて携帯電話機が一般ユーザーの手に触れてからちょうど40年というタイミングでもある。写真はそのときの端末「ワイヤレステレホン」(写真)だ。実はこれがカケホーダイだった。

 ワイヤレステレホンは、1970年開催の日本万国博覧会(大阪万博)・電気通信館でNTT(当時は日本電信電話公社)が未来の電話機として展示した。来場者が手にとって操作でき、日本国内への通話、会場内の端末同士の通話ができた。商用サービスではなく、体験コーナーだったため、無料で何時間でも通話ができたのだ。

 当初は会場内で、端末を持ち歩いて通話してもらうことを想定していた。だが、予想外に長時間通話する来場者が多かったため、途中から持ち歩けないように席に座って通話してもらうよう展示方法を変更したそうだ。時間が来たらコンパニオンが、通話を終了するよう促したという。展示は大いに人気を博し、常時60から100人の待ち行列ができた。会期中には、約65万人がワイヤレステレホンでの通話を体験した。

 この端末を作ったのは、当時開発中だった自動車電話サービスに携わった技術陣。重量は約700gで、単ニ型のニッカド充電池を搭載し、10時間程度は通話できたという。今の携帯電話に比べれば当然、大きく重いが、万博から約9年後の1979年に実用化した自動車電話や、その後1985年に登場したショルダーホンを思い浮かべると、思いのほか小さく、通話時間も長い。

 その秘密は、ワイヤレステレホンの実現技術が、現在の移動通信システムとは大きく異なっていたからだ。使った無線技術は、免許の要らない微弱電波。数メートル程度しか電波が飛ばず、消費電力も少なかった。1基地局で複数の端末を収容するセルという概念もなく、各端末に一つ一つ使う周波数を登録し、集線装置のようなもので1台ずつ固定電話回線につないでいたという。いわば、屋内のコードレス電話に近い技術で作られていた。

 展示の目的は技術の実証ではなく、一般ユーザーが持ち運べる電話機をどのように使うかを見ることにあった。

 当時、固定電話は人差し指でダイヤルするのが普通だったが、会場では親指でボタンを押すユーザーが多かった。また、ダイヤルの前に、耳に受話器をあてて発信音を確認するものだったが、会場ではまず電話番号を押すユーザーが多かったという。こうした発見が、その後の携帯電話サービスの開発にも生かされた。

 ワイヤレステレホンは現在、NTTの武蔵野R&Dセンター内にある「NTT技術史料館」に展示されている。