「放送利用についての管理楽曲の利用許諾分野における競争を実質的に制限している」という理由で、日本音楽著作権協会(JASRAC)が公正取引委員会から受けた排除措置命令に関する審判(第9回)が、2010年9月30日に開催された。今回は、イーライセンスの代表取締役である三野明洋氏が参考人として呼ばれた。

 公取委のJASRACに対する排除措置命令書によると、イーライセンスは、エイベックスマネジメントサービスなどから放送利用に関する音楽著作権管理の委託を受けて、2006年10月から管理事業を開始した。エイベックスマネジメントサービスがイーライセンスに委託した音楽著作物の中には、人気歌手である大塚愛さんの「恋愛写真」を含め、人気楽曲となることが予想される楽曲があった。ところが一部のFMラジオ局などは、エイベックスの楽曲をほとんど利用しなかった。公取委は排除措置命令書において、「JASRACが放送等使用料を包括徴収しているため、放送事業者はエイベックスの楽曲を自らの放送番組で利用すれば、放送等使用料の追加負担が生じる。総額が増加することから、当該追加負担を避けた」としている。三野氏は、「追加負担が発生するため放送事業者が放送を控えていると、エイベックスから知らされた」と、当時の状況について述べた。

無料化はタレントの出演キャンセルに対処するため

 エイベックスマネジメントサービスの親会社であるエイベックス・グループ・ホールディングスとイーライセンスは、楽曲が放送事業者にほとんど利用されないことへの対策について協議し、2006年10月1日から12月31日までに期間を限定して使用料を無料にした。「楽曲のプロモーション上、まったく放送されないのは問題があるので、無料で放送してもらおうという提案をエイベックス側から受けた」(三野氏)という。「大塚愛さんの楽曲である『恋愛写真』を番組で流せないため、大塚さんのラジオ番組への出演が中止になるという情報が入ったため、これに対処しなければならなかった」という。エイベックス側からは、「『2007年1月までには解決策を見付けてほしい』と強く要望された」という。無料化が決まった当時の状況について三野氏は、「楽曲が使われるのに料金を徴収できない。管理事業者としての責任を果たせていないと感じた」と述べた。2007年1月になっても解決のメドが立たず、エイベックスマネジメントサービスはイーライセンスとの契約を解除した。

 その後イーライセンスは、楽曲の著作権管理を手がける音楽出版の大手企業から、楽曲管理の契約を結ぶに至っていない。「イーライセンスに著作権管理を委託した楽曲は放送されないという情報が音楽出版社に入っている」(三野氏)ことを理由として挙げた。

 こうした三野氏の陳述に対し、JASRAC側はイーライセンスの著作権管理事業の体制が必ずしも整っていなかったと指摘した。「日本民間放送連盟の担当者によると、2006年9月28日はイーライセンスが放送使用料の最終案を提出した日で、ラジオの使用料については事実上合意に至っていない」(JASRACの代理人)として、2006年9月下旬時点でも民放連に加盟するラジオ事業者がイーライセンスの管理楽曲を放送できる状態になっていなかったと指摘した。三野氏は、「その認識はない」と反論した。JASRACの代理人は、放送事業者はイーライセンスと契約を結ぶと「報告漏れがあった場合に膨大な金額がペナルティーとして課せられる」と指摘したうえで、「2006年10月時点でイーライセンスの管理楽曲は確定されておらず、契約書のフォームもなかった。放送事業者がイーライセンスの管理楽曲の使用を控えるのは自然なこと」と主張した。三野氏は、「2006年12月時点で管理楽曲は確定した」と述べた。

「包括利用許諾契約はメリットが大きい」とNHK

 審判の後半では、日本放送協会(NHK)の石井亮平氏が参考人として質問に答えた。NHKは、イーライセンスに使用楽曲の全曲報告を行っている。石井氏は、「全曲報告は当たり前のこと」と述べた。NHKとJASRACの包括許諾契約の見直しについては、「イーライセンスの支払い額が一定以上になれば、見直しの交渉をするかもしれない」とした。追加費用負担を回避するためにイーライセンスの管理楽曲の利用を自粛することはないのか、という質問に対しては、「法律違反や公共良俗に反しない限り、特定の楽曲を利用対象から外すことはない」と述べた。JASRACとの包括利用許諾について、「メリットがデメリットを大きく上回る」という見方を示した。