本研究所では、クラウドコンピューティングについて、モバイルソリューションの観点から企業の情報システムを考えます。これまでは経営者やユーザーの観点から、クラウドの価値や本質、クラウド導入に積極的な企業の条件、コラボレーションの大切さ、IT部門の意識変革やクラウド化すべき業務、そして発展的な未来像などについて言及してきました。今回は前回に続き、iPadの登場以降様々な観点で注目されているタブレットデバイスについて、ビジネスで求められる機能要件を研究してみます。

 前回言及したように、iPadは非PC・非スマートフォンの領域を切り開いたきっかけとなったデバイスです。商品カタログを代替する店頭ソリューションといった小規模な導入事例から始まったものの、いよいよエンタープライズレベルでの大規模な導入事例が報告されるようになってきました。

 例えば大塚製薬のMR(医薬情報担当者)に向けた1300台の導入、コクヨの「次世代オフィス」サービス開発に活用するための1500台の導入、ソフトバンクグループにおける営業職を中心とした約1000台の導入などです。またBMWジャパンが、店頭コミュニケーションツールとして、10月末までに小型スポーツ車「MINI」の正規ディーラーに、年末までにはBMWの正規ディーラーに導入するようです。

 積極的な導入の話が聞かれるのは、第12回の図3で示したように、教育、医療、小売・流通といった業界における営業職や顧客接点となる職種に対してが中心です。当初は問題視された納期も、今ではあまり心配しなくても良くなったことなどもあり、数百台や1000台を超える規模の導入を検討するケースが増えているようです。実際、筆者もそうした相談に応えています。

 大規模導入が本格化している背景には、セキュリティに関する評価や、実使用による効果などを体験した企業が増え始めたことがありそうです。最近では、凸版印刷とソフトバンクテレコム、ソフトバンクモバイルが企業向けのiPad導入に関して、包括的なサービス提供を前提とする提携を発表しました。企業へのiPadの導入は、これまで以上に活性化する可能性が高まっているのです。

 さらに今秋からは、様々なタブレットデバイスの発売が発表されています。iPadに限らず、企業が採用できるデバイスの選択肢が劇的に増えてきたわけです。9月以降は筆者も、「どのようなデバイスが可能性として考えられるのか」と頻繁に聞かれるようになりました。

 iPad以降、2010年10月時点までに発表された主要なデバイスをにまとめてみました。この表から読み取れることとしては、まずOSに「Android2.2」を搭載するデバイスが圧倒的に増殖している中で、Windowsタブレット(スレートPC)も登場し始めたことです。

表●主なタブレットデバイスの仕様
表●主なタブレットデバイスの仕様
2010年10月時点で発売が発表されている機種をまとめた
[画像のクリックで拡大表示]

 アプリケーションマーケットの充足度はAndroidが圧倒的です。しかし、これまでの企業内におけるWindowsの浸透度合いからすれば、既存ファイル資産やユーザーインタフェースへの慣れといった観点から、企業にタブレットデバイスが本格的に普及するためには、Windowsタブレットが不可欠だとも考えられます。