LTE(Long Term Evolution)規格による高速無線通信サービス第1号となるNTTドコモの「Xi」(クロッシィ)は、2010年12月の開始時点ではどこで利用できるのか。同社は7月上旬に、LTEに関する設備投資を前倒しする方針を明らかにしている。山田隆持社長は、「これまでは2010~2014年度の5年で約3400億円を投資する計画だったが、新方針では2010~2012年度の3年で3000億円程度を投資する」としている(図1)。

図1●NTTドコモのLTE展開計画<br>2011年3月までに東京・大阪・名古屋地区に展開。その後、県庁所在地、主要都市にもサービス地域を広げる。
図1●NTTドコモのLTE展開計画
2011年3月までに東京・大阪・名古屋地区に展開。その後、県庁所在地、主要都市にもサービス地域を広げる。
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 NTTドコモが設備投資を大きく前倒す理由は、「データ通信に対する強い要求に答えるため」(経営企画部の大井達郎経営企画担当課長)。都市部を中心にデータ通信の需要が高まっており、早期に利用可能な地域を増やすことでユーザーの満足度を上げようというわけだ。

 2012年度末までにNTTドコモは、1万5000局のLTE基地局を設置する予定である。同社の第3世代移動体通信(3G)向け基地局は、2GHz帯だけでも2009年3月時点で4万5000局あることを考えると、LTEが3G並みに広がるにはまだ時間がかかりそうだ。ただ、設備投資を前倒すことにより、同社が総務省に提出した事業計画「2014年度の時点でLTE契約者の割合は全契約者の30%」という目標は早めに達成できる可能性もある。

 もともとNTTドコモは人口カバー率の向上よりも実需要への対応を重視している。都市部でのデータ通信の増加に対応することで、新しい需要を呼び込む効果もあるだろう。

既にLTEサービス対応基地局を設置

 当初のサービス展開についてNTTドコモは「駅周辺だけといった点の展開ではなく、ある程度の広がりを持った面的な展開をイメージしている」(大井担当課長)。NTTドコモは、LTEの基地局を短期間で広域展開するために、既に準備導入を始めている。

 その一つが「光張り出し基地局」と呼ばれる無線基地局である。これは、デジタル信号処理や保守監視機能などを備えた基地局装置(BDE:Base Station Digital Equipment)と電波の変復調機能を装備した無線装置(RRE:Remote Radio Equipment)で構成し、1台のBDEに複数のRREを接続できるようにしたものである。

 NTTドコモは2009年12月に3GとLTEを共用できるRREを開発しており、一部の基地局には既に導入済み。この共用型RREを導入していれば、BDE側にLTE対応機器を追加導入するだけでLTEのサービス地域を広げられる。2010年12月時点では、当初のLTEサービス地域の約半数がこの共用型RREになっている。

マイクロセルでデータ通信への満足度を向上

 LTEの基地局展開で特徴的なのは、セルが小型化することだ。従来の中心だったセル半径が数kmのマクロセルではなく、セル半径が比較的小さいマイクロセルが中心になるとみられている(図2)。「LTEでは、明らかに需要の中心はデータ通信になる。データ通信の満足度を上げるためには、セル半径を小さくする必要がある」(華為技術日本 ワイヤレス・マーケティング部の鹿島毅マーケティング マネージャー)からである。実際、NTTドコモも「マクロセルでの導入と並んで、主要駅や空港など利用が多く見込まれる地域ではマイクロセルの導入も予定している」(大井担当課長)とする。

図2●LTEではマイクロセルが中心になる<br>LTEはデータ通信が前提。各端末のスループットを確保するために、小型のマイクロセルが中心になると予想されている。
図2●LTEではマイクロセルが中心になる
LTEはデータ通信が前提。各端末のスループットを確保するために、小型のマイクロセルが中心になると予想されている。
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 回線交換による音声通信では、セル周辺であっても、回線を保持するように電波出力を高めるなどの工夫が施されていた。しかし、LTEでは基本的には通信環境が良好であればスループットが上がる「ベストエフォート型」の通信になる。特に、通信品質を重視する姿勢を見せているNTTドコモの場合、都市部などの需要が高い地域にはマイクロセルを密に打ってくるとみられる。メーカー各社も小型基地局の開発に力を入れており、競争によって機器の価格が下がれば、それはユーザーとって歓迎すべき動きである。

 低価格化を望むユーザーにとって歓迎すべき技術の一つが、自律型のネットワークを構成できるSON(Self Organizing Network)である。SONは、「自己構成」「自己最適化」「自動障害識別」「自己修復」などの要素からなる技術で、運用管理が効率化されるものと期待されている。