NTTドコモが2010年12月に開始する、LTE(Long Term Evolution)規格の無線通信サービス。その特徴は高速なデータ通信である。では、「通話」はどうやって実現するのだろうか。
LTEではネットワーク遅延時間が短いことから、IP上での音声通話サービス(VoIP:Voice over IP)を実現しやすいと言われている。LTE上で提供されるVoIPサービスを特に「VoLTE」(ヴォルテ)と呼ぶこともある。現在でも、「Skype」などインターネット上で実現されているサービスは利用可能だが、VoLTEなら通信事業者が自らのIP網を使って品質保証する音声通話サービスが可能になる。ただ、その実現はしばらく先になりそうだ。
VoLTEの実現までは、LTEではなく既存の第3世代移動体通信(3G)ネットワークを利用して音声通信を実現する。3Gでは音声通信などに使われる回線交換(CS:Circuit Switched)とパケット交換(PS:Packet Switched)の両通信モードが用意されていたが、LTEが備えるのはパケット交換だけである。LTEのゴールは、IPによるコアネットワーク「IMS」(IP Multimedia Subsystem)上で音声通信をはじめとするすべてのサービスを実現すること。しかし、LTEの地域展開が途上にあり、IMS上での音声通話の実現手段が未整備の段階ではこうした状況は望めない。そこで用意されているのが、「CSフォールバック」と呼ばれる仕組みである(図1)。
着信通知など3Gとの連携が不可欠
CSフォールバックにおける着信の仕組みは以下のようになる。LTE機能を備える端末は、LTE待ち受け時には3Gネットワークを利用できないため、まずは3Gの音声通信ネットワーク(CSドメイン)からLTEコアネットワークに着信があったことを伝える必要がある。つまり3Gネットワークの音声通信は、LTEコアネットワークから信号を受信する。着信信号を受け取った端末は、その信号を基にLTEから3Gにネットワーク機能を切り替え、3Gネットワーク経由で音声通話を始めるという仕組みである。
発信時にも基本的には同様の動作になる。普段はLTEで待ち受けるものの、音声通話を始める場合には端末操作で3Gネットワークに切り替え、音声通話を始める。このほか、CSフォールバック機能には、LTEネットワーク上で端末位置を特定する機能などが含まれている。
NTTドコモの尾上誠蔵執行役員は、2010年7月に「ワイヤレスジャパン2010」で行った講演でLTEを含むネットワークのIP化や音声通話の統合について言及(図2)。2010年代のどこかでIP網に音声通話を統合する可能性を示唆しているが、具体的な事業計画は未定のようだ。同社の経営企画部門としては「CSフォールバックをそのまま維持するケースを含めて検討している」(NTTドコモ 経営企画部の大井達郎経営企画担当課長)という。
3Gと同様、自らは設備を持たずに通信サービスを提供する事業者MVNO(Mobile Virtual NetworkOperator)もNTTドコモのLTEネットワーク網を利用してサービス提供できる。NTTドコモは2010年4月以降に技術的条件を公開、5月からは事前調査申し込みを受け付け、続いて6月には接続申し込みの受け付けを始めた。MVNOによるLTEサービスの提供は、NTTドコモと同じ12月である。申し込み状況などMVNOの具体的な動きについて、NTTドコモは明かしていない。
MVNOへのLTE提供形態については、FOMAと同様に「卸電気通信役務」と「事業者間接続」の2種類を用意している(表A)。前者は、その名の通り事業者の端末やサービスを安価に仕入れて、利益を上乗せして売る形態。端末の調達や料金設定などで事業者の制約を受けることになり、MVNOのサービスは既存事業者が提供するものと似通ってしまう。
後者は、2007年にガイドラインが出された比較的新しい提供形態であり、前者に比べるとサービスや端末開発でMVNOが主導権を握ることができる。端末の調達や料金設定での自由度がある。通信事業者にはないサービスや端末の品ぞろえが期待できるのは、こちらの形態である。