LTE(Long Term Evolution)の高速性を期待するユーザーにとっては、実効的な速度(スループット)が気になるところ。スループットは、利用する周波数帯域幅、端末の実装、利用環境などによって決まる。
20MHz幅フルに使えば250Mビット/秒
目安の一つになるのは、過去の実証実験の結果だろう。NTTドコモは、2008年2月から横須賀地区で実施した屋外のLTE実証試験において、下り方向で最大約250Mビット/秒のパケット信号伝送を実現した。ただし、これは送信アンテナと受信アンテナを4本ずつ使う4×4アンテナを用いたMIMO(Multiple-Input、Multiple-Output)伝送で、周波数帯域幅も標準仕様が規定するうち最大の20MHz幅を使用したものである。実利用環境よりも潤沢なリソースを使っている。
NTTドコモは実証試験に続いて、2010年6月に東京都内で商用ネットワークを使った試験運用を始めた。この試験運用では、実サービスを想定し、実際に利用する2GHz帯の周波数帯域を用いて、伝送速度や遅延などの通信品質、移動機の無線基地局間移動の安定性などを検証する。しかし、「その結果は公表しない方針」(同社)としている。
10MHz幅なら最大40Mビット/秒超も
他社の動向などから推測すると、5MHz幅を使う当初サービスでは最大で30Mビット/秒を超えるスループットが得られそうだ。
2009年12月からスウェーデンのストックホルムとノルウェーのオスロで商用サービスを始めた、北欧の通信事業者テリアソネラの例を見てみよう。同社のサービスは、世界で最初のLTE商用サービスとされる。
同社のサービスにネットワーク機器を納入しているエリクソンが実施した、ストックホルム市内でのドライブテストによると、通信環境が良好な場所であれば40Mビット/秒超、多くの地点で10Mビット/秒を超えるスループットを得ている(図1)。
ここで注意が必要なのは、テリアソネラが利用している無線の周波数帯域幅が上下10MHzであること。国内では、NTTドコモが当初のサービスで使うのは5MHz幅に限られる。単純に考えると国内の当初サービスのスループットはその半分程度ということになる。
ただし、日本では単純な試算よりも高い性能が期待できるという。「NTTドコモは、セル間の干渉や基地局側のアンテナ性能などをきめ細かくチューニングする。このため、国外の測定結果に比べて高いパフォーマンスが期待できる」(日本エリクソンの藤岡雅宣北東アジアCTO)。
実際に国内では、NTTドコモのものではないが、テリアソネラに比べて良好な結果を得ている実証試験の例がある。富士通が行っているフィールドトライアルだ(図2)。
5MHz幅で35Mビット/秒を実現した富士通
同社の実験規模は基地局の数が3局、ユーザー端末数は5台と小さいものの、利用する帯域幅は5MHz。NTTドコモがXi(クロッシィ)で当初採用する利用帯域幅と同じである。その実験結果によると、下りが最大34.6Mビット/秒、上りが同9.5Mビット/秒を達成した。5MHz幅の周波数を使う場合、カテゴリー3端末の規格上の最大通信速度は37.5Mビット/秒なので、上限ぎりぎりまで性能を高めているといえそうだ(第1回の表1を参照)。
端末とネットワーク間の折り返しの遅延時間は、「20数ミリ秒程度だった」(富士通ネットワークプロダクト事業本部の長谷川淳一本部長代理)という。音声通信などリアルタイム性を求める双方向型の通信アプリケーションから見ても十分に短い遅延時間である。
富士通のフィールドトライアルは、ユーザーの利用が少ない状態で行ったもの。多くのユーザーが同時に利用すれば、スループットは低下する。「最大数Mビット/秒という現行のHSDPAサービスも、実測値では数百kビット/秒にとどまっている。LTEでも、実際には数Mビット/秒になるのではないか」(関係者)とみる向きが多い。ピークの通信速度に基づく過大評価は禁物である。