NTTドコモの3Gサービス「FOMA」の登場から9年がたった今、国内のモバイルデータ通信の勢いは加速する一方である。端末で言えば、ネットとの親和性を高めたスマートフォンやタブレット型端末など魅力的な製品が人気を博しているほか、モバイル機器を多用するビジネスパーソンを中心に「モバイルルーター」が売れている。

 用途としても、外出先での大量のデータ通信が当たり前に使われている。個人利用が中心だが、「YouTube」や「Ustream.tv」「BeeTV」などの動画通信の利用が拡大し続けている。

 このタイミングで登場するLTEによって、モバイルブロードバンドの魅力が一段と増すと期待されている。LTEを端的に言えば「高速・低遅延・高効率」の無線通信技術。NTTドコモは既存のHSPAサービスと比較し、「高速性は10倍、遅延時間は4分の1、効率は3倍」としている。LTEへの期待が高まるのは、これらの特徴を生かした新しいモバイルブロードバンド機器や用途が開拓され、それがユーザーの利便性を高めることになるからである。

 LTEに対する需要と期待は、世界市場でも高まっている。「2009年ころには、世界市場の一部で“LTEは不要ではないか”という声があった。しかし、米アップルの「iPhone」の利用増に伴う米AT&Tや英国O2の通信障害で、再びLTEの魅力が見直されるようになった」(ノキアシーメンス ネットワークス ソリューションビジネス事業本部の小島浩技術部長)。これは通信事業者寄りの視点だが、急増するトラフィックを限られた帯域の中で効率よく処理したいという要求が高まっているのである。

高速性が最大の魅力

 LTEが備える三つの魅力の中で、ユーザーにとって最も分かりやすいのが高速性だろう。LTEの通信速度は、規格上は最大300Mビット/秒である(表1表2)。この最高速度を得るには4組のアンテナを備えた設備と潤沢な周波数が必要になる。

表1●LTEカテゴリー表<br>規格上の最大速度は300Mビット/秒だが、実装上は当面最大100Mビット/秒のカテゴリー3が中心になる。ピーク速度は概数。
表1●LTEカテゴリー表
規格上の最大速度は300Mビット/秒だが、実装上は当面最大100Mビット/秒のカテゴリー3が中心になる。ピーク速度は概数。
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表2●LTEカテゴリー表(周波数幅別)<br>利用する周波数幅によって最大速度が異なる。NTTドコモは当初5MHz幅を使うため屋外で最大37.5Mビット/秒のサービスとなる。ピーク速度は概数。
表2●LTEカテゴリー表(周波数幅別)
利用する周波数幅によって最大速度が異なる。NTTドコモは当初5MHz幅を使うため屋外で最大37.5Mビット/秒のサービスとなる。ピーク速度は概数。
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 この300Mビット/秒の実現時期は不明だが、少なくとも当面は最大75Mビット/秒の通信環境が用意される。周囲の通信状態に影響を受けるベストエフォート型ではあるものの、従来の10倍の速度が得られるとすれば、多くのユーザーが使い勝手が良くなったと感じることだろう。

 低遅延性にも期待感がある。LTEでは、端末と無線アクセスネットワーク(RAN)間のネットワーク遅延時間は5ミリ秒以下とされている。これにより、エンドツーエンドの遅延時間は数十ミリ秒以下となる。このため多くの関係者は「テレビ会議や対戦型ゲームなど、モバイル環境での双方向通信が広がるだろう」とみている。

 LTEの低遅延を応用したアプリケーションの一つとして、NTTドコモは拡張現実(AR:Augmented Reality)を想定している。モバイル機器を空間や物体などにかざすと、それに応じた情報を重ねて表示するというものだ。同社はこれ以外にも「LTEの低遅延性を生かせるアプリケーションを開発中」(同社)とする。

通信サービスとビジネスモデルが両輪

 もちろん、単にLTEによる通信サービスが始まるだけでユーザーが満足するという考えは安易すぎるだろう。「既にサービスが始まっているUQコミュニケーションズのモバイルWiMAXの通信速度は最大40Mビット/秒で、当初のLTEに近いレベル。同社のこれまでの実績を考えると、単に高速というだけでユーザーをひきつけられるか疑問だ」(バークレイズ・キャピタル証券 株式調査部 津坂徹郎ディレクター)と慎重な見方もある。

 これまでのモバイル通信市場の歴史を振り返ると、新しい通信サービスは、新しいビジネスモデルと両輪となって市場を開拓してきた。iモードでは、「もうかるコンテンツ市場」ができたことで、パケット通信市場が立ち上がった。iPhoneでは「アプリのダウンロード市場」が世界的に構築され、3Gの魅力が世界中に認識されるようになった。

 今のところ、LTEの導入に合わせて斬新なサービスやビジネスモデルが具体化する動きは見えていない。特に、モバイル環境で低遅延を生かしたサービスは未開拓といっていいだろう。新しい使い方が開拓されなければ、通信事業者にとっての魅力となる周波数の利用効率性だけが注目されることになる(図1)。新しいサービスやビジネスモデルは、黙って待っていても出てこないかもしれない。新サービスなどを生み出すのは、「こんなサービスがあったら便利」と考え、声を上げるユーザー自身である。

図1●当面は通信事業者に大きなメリット<br>当面、サービス地域は限定的で、かつ通信速度は最大75Mビット/秒程度にとどまる見込み。周波数の利用効率を高めたい通信事業者には大きなメリットがありそうだ。
図1●当面は通信事業者に大きなメリット
当面、サービス地域は限定的で、かつ通信速度は最大75Mビット/秒程度にとどまる見込み。周波数の利用効率を高めたい通信事業者には大きなメリットがありそうだ。
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