Webや携帯電話といった情報ソースの多様化、内部統制に向けた情報保存の要請、マーケティングを目的としたより詳細な情報の取得など、企業が扱う情報が飛躍的に増える“情報爆発”が起きつつある。管理コストの増大を懸念する声があるものの、“次の一手”を見出すためには、この情報爆発をチャンスに変えなければならない。

 “爆発的”と呼ばれるほどに情報が増えている。米IDCと米EMCは、2008年に実施した調査で、全世界で生成されるデジタル情報は07年の281E(エクサ)バイトから、11年には1800Eバイトにまで増えると予測した。2009年12月時点で、そのカウンタは700Eバイトを超えた。

 数年間に情報量を6倍にも押し上げる要因の一つは、その発信源が増えることだ(図1)。

図1●「情報爆発」の要因と、その情報を活用するための方向性
図1●「情報爆発」の要因と、その情報を活用するための方向性
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 例えば、新商品の評判をブログから集めるようなマーケティング手法が登場してきた。ブログ解析サービス「感°レポート」を手掛けるNECビッグローブの渡辺純子ポータル事業部シニアエキスパートは「大手ブログサービスを中心に1日に100万記事の更新をキャッチアップしている。これは国内全体のブログの更新の8~9割に当たるだろう」と話す。これまで以上に情報活用を進めたいと考えれば、こうした新たな情報が積み重なる。

 発信源は人だけではない。代表格が、携帯電話などを利用したセンサー情報だ。東京大学の喜連川優 生産技術研究所教授は「センサーが運動量を測定して人の健康を判断するなど、行動情報を処理するようになると、情報はこれまでよりはるかに多くなる」と指摘する(関連記事「ぶっとんだ発想をだそう」)。

 さらに、内部統制への対応などが情報増に拍車をかける。情報の保存期間をこれまでより長くするだけでなく、文書からメールへと管理対象を広げる動きもある。

リーマンショックも乗り越えた

 こうして見ると、情報の急増はストレージなどの保存コストを押し上げるし、情報管理を煩雑にするなど、マイナス面が多い。しかし、情報爆発をチャンスととらえ、活用の幅を広げる企業は少なからずある。

 横浜銀行は、蓄積した膨大な情報から顧客の挙動を分析し、ビジネスチャンスを自動で検知する仕組みを整えた。同行はこの仕組みを徹底して活用することで、リーマンショックからわずか2カ月で、金融商品受注の落ち込みを食い止め、前月比で受注を増やすことに成功した。

 センサー情報のように、これまで取得が難しかった情報が簡単に利用できる日もそう遠くない。NTTドコモが現在検証を進めている携帯電話を使った行動情報処理サービス「マイ・ライフ・アシストサービス」は、日常行動の情報などを解析しマーケティングに利用しようというもの。同社の佐藤一夫モバイルデザイン推進室第一推進担当部長は「利用者のプライバシー保護など課題は残っているが、2012~15年にサービス開始できると考えている」と話す。

 複数の企業が連携して、一企業に閉じない情報分析を目指す機運もある。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が展開している、複数の企業で利用が可能なポイントサービス「Tポイント」のようなサービスは、その基盤となり得る。CCCはTポイントで蓄えた顧客情報などの活用について「利用者の情報保護などに配慮したうえで、マーケティング目的の利用を検討している」とする。

図2●今後企業が新たに活用すべき情報
図2●今後企業が新たに活用すべき情報
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 こうした新たな情報活用に向けて、利用基盤の整備が欠かせない。BI(ビジネスインテリジェンス)や情報検索の新たな仕組みが必要だ。それを実現するには、これまでより情報の処理性能や保存効率を上げなければならない。ILM(情報ライフサイクル管理)や重複排除、MDM(マスターデータマネジメント)などがそうした基盤を担う。処理性能を柔軟に高めるためには、クラウドコンピューティングの出番もあるだろう。

 情報活用の観点は、社内と社外の二つがある(図2)。

 前者は、社内に眠っている情報から宝を掘り起こそうというアプローチ。後者は、社外の情報を取り込み、新たなアプリケーションを作るような試みだ。次回からは、事例を通じて活用のポイントを見ていく。