「イノベーションの民主化」という概念がある。企業がイノベーション──新たな価値の創出──を起こそうとするとき、企業の外部にいる人々による支持と活動が重要となることを指す言葉である。特に、ソフトウエア技術を推進する企業にとって、その技術を活用してくれる社外開発者の支持と活動は死活問題だ。

 優秀なエンジニアが集まることで知られる米Googleといえども例外ではない。Googleが推進する技術群の中でも、HTML5と同社が公開するWeb API群、クラウド上のアプリケーション構築技術Google App Engine、そしてスマートフォン用のOS/開発環境であるAndroidの3系統の技術は、Google外部のソフトウエア開発者の支持を前提としている。社外の技術者がそっぽを向けば、これらの技術の価値はなくなるのだ。

 2010年9月28日に開催されたGoogleの開発者向けイベント「Google Developer Day 2010 Japan」は、同社がどれだけの力を、Google外部のソフトウエア技術者に振り向けているのかを観察する良い機会であった。

 Googleは大小さまざまな開発者イベントを実施している。最も大きなイベントが1年に1回開かれるGoogle I/O。次に大きなイベントが、年に数回、世界各地で開催されるGoogle Developer Dayだ。この日に東京で開かれたGoogle Developer Dayでは約1400人の開発者が集まり、大変なにぎわいを見せた。このイベントを観察することから、同社の戦略を理解する上で重要なヒントが得られる。

 「イノベーションの民主化」という観点で見ると、Androidは大きな成功を収めつつあることが、皮膚感覚として伝わってきた。Googleの社外にいる多くの開発者が、Androidアプリを開発し、またAndroid OSを様々なデバイス上で動かすための努力を続けている。実際、後述するように世界的なAndroidの普及のペースは凄まじい水準にある。そして、この日のイベントでの日本のAndroid開発者達によるセッションや展示には、ある種の勢いが感じられた。

Android関連セッションへの力の入れ方が印象に残る

 今回のイベントの3本柱は、(1)Chrome & HTML5、(2)Android、(3)クラウド・プラットフォーム、であった。個別の技術セッションを見ると、全22件のうちAndroid関連セッションは6件と多い。セッション会場も、最も広い部屋が使われていた。

写真1●Google Developer Day 2010 Tokyoの主要テーマ。Androidは、Chrome & HTML5、クラウド・プラットフォームと並ぶ主要テーマである
写真1●Google Developer Day 2010 Tokyoの主要テーマ。Androidは、Chrome & HTML5、クラウド・プラットフォームと並ぶ主要テーマである
[画像のクリックで拡大表示]

 他のセッションを見ると、ソーシャルウェブで2件、HTML5で2件、Google JavaScript APIで2件、ChromeとApps Marketplace関連で3件、Google App Engine関連で3件、Google Web Toolkitで1件、Go言語で1件、エンジニアのライフスタイルなどで2件、という配分であった。

 今年3月に都内で開催された開発者向けイベントGoogle DevFestでの試みを引き継ぎ、参加者には「DevQuiz」と呼ぶ試験を課した。ある水準以上のプログラム開発の能力があるソフトウエア開発者だけを集めたイベントということになる。今回は3つの枠を設け、開発能力、コミュニティへの貢献、将来性のそれぞれの尺度で参加者を選んだ。こうした選抜方法の影響もあってか、平日開催の大型イベントにも関わらず、参加者の雰囲気は草の根の開発者イベントに近いものだった。実際、休暇を取って個人の資格で参加した開発者もいた模様だ。