ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 2010年には、日本企業が連結子会社を完全子会社する動きが目立った。たとえばパナソニックは7月29日、三洋電機とパナソニック電工を完全子会社・上場廃止すると発表した。日本経済新聞は同日付の記事で「3社の独立性を保った従来のスピード感での経営では世界市場で勝てない」「100メートル走の経営に挑むパナソニック」などと表現している。

 現会長の中村邦夫氏がパナソニック(当時は松下電器産業)の経営を引き継いだ2000年以降、同社は子会社群の上場廃止や本体への一部取り込みなどを積極的に進めてきた。松下の象徴でもあった事業部制は発展的に廃止し、グループ企業全体を複数のドメイン(実質の「事業」)に再定義した。2002年には松下通信工業、九州松下電器など5社を完全子会社化している。

 こうした経緯を見ると、今回の三洋とパナソニック電工の完全子会社化・上場廃止は至極当然の流れといえる。中村改革の総仕上げというところであろうか。

 8月27日には、キリンホールディングスがメルシャンを完全子会社化・上場廃止すると発表。「少数株主のいる上場子会社へのガバナンスという従来のスタイルが問題(メルシャン水産飼料事業部の不適切取引)の発見を遅らせた」(同日付の日経記事)と、リスクマネジメントの観点からも連結ガバナンスの強化を進めようとしている。

 さらに日経ヴェリタス2010年8月29日号は「キヤノン、親子上場路線と決別 メリット薄れ社数4分の一へ」という記事を載せた。「…四半期開示や国際会計基準の導入準備など、上場コストが増加する中で、経営の非効率が目立つようになり、今回の決断へつながったと見られる」とする。

欧米企業は「少数持分」を好まない

 子会社の上場に対する考え方は、日本企業と欧米企業で大きく異なる。欧米企業では、「子会社を上場させる」という概念はほとんどない。子会社が上場する場合は、その企業あるいは事業が連結企業グループから離脱(スピンアウト)する一プロセスと位置付けている。

 そもそも欧米企業は、連結支配をしている子会社に少数持分(IFRSの連結概念では「非支配分」と呼ぶ)が入ることを好まない。持分に対しては配当を支払う必要などがあり、明らかにグループ外へのキャッシュアウトになるからである。これは子会社が上場か非上場かにかかわらない。

 上場するとなると、このようなキャッシュアウト以外に上場に伴うコストや情報開示義務、訴訟リスクなどを抱えることになる。子会社上場によるメリットとしてキャッシュの獲得が挙げられるが、投資家へのリターン(株主配分)を考えると、この株式公開によるキャッシュ獲得のコストは決して低いものではない。

 キャッシュが必要であれば、上場できる実力をもつ優良子会社を含めた連結企業グループとしての信用力(格付け)を活用し、社債を発行するか、金融機関から資金を借り入れればよい。適切な負債・資本比率(D/Eレシオ)を維持することは、税金費用などを考慮に入れると資金コストの最小化につながる。資本・資金調達戦略は当然、連結企業グループとして考えるべきで、個々のグループ会社が決定するものでない。

 将来キャッシュフローが見込める優良企業であればあるほど、少数持分は極力排除し、100%持分として将来的にも上場せずに連結子会社として維持すべきである。これが、欧米企業流の価値観である。