有限責任監査法人トーマツ
エンタープライズリスクサービス部 パートナー
高居 健一

 IFRS(国際会計基準)が有形固定資産プロセスに与える影響として、「借入費用の資産化」と「資産除去債務」について3回にわたって解説した。今回は「減損会計」について解説する。

 固定資産の収益性が低下することにより、将来の回収可能価額が当該固定資産の期末の帳簿価額を下回るケースがある。減損会計とは、そうした場合に帳簿価額を減額する会計処理のことを指す。例えば、不動産市況の悪化に伴い、賃貸用ビルの賃料が下落したり空室率が上昇したりすることで、将来の回収可能価額が低下するようなケースが該当する。

 減損会計は、企業の利益水準に与える影響が大きい。一度に多額の損失計上となるケースが多いからだ。IFRSと日本基準との間にはいくつかの重要な相違点があり、特に多額の固定資産を有する企業は注意が必要である。

 以下、減損会計に関するIFRSと日本基準の主な相違点と、業務プロセスや情報システム、内部統制に与える影響について説明する。ここでは、有形固定資産について原価モデルの採用を前提としている。

IFRSと日本基準の主な相違点

 減損会計に関するIFRSと日本基準の主な相違点をに示す。

表●減損会計についてのIFRSと日本基準との主な相違点
項目IFRS日本基準
減損の認識の判定 帳簿価額と比較する使用価値は、割引後キャッシュ・フローで算定する(IAS第36号30項、31項) 帳簿価額と比較する使用価値は、まず割引前キャッシュ・フローで算定する
減損損失の戻入 減損損失の戻入が認められる。ただし、のれんを除く(IAS第36号114項) 減損損失の戻入は認められない
将来キャッシュ・フローの予測期間 資産の残存耐用年数。使用する予算は最長5年間で、それ以降については、一定または逓減する成長率を用いて延長する(IAS第36号33項、35項) 資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方。使用する予算の期間については特に規定なし

(1)減損の認識の判定

 減損の兆候が認められた場合、日本基準では、まず「割引前キャッシュ・フロー」で算定した使用価値と帳簿価額を比較する。割引前キャッシュ・フローは、将来キャッシュ・フローを割り引かずに現在価値として集計したもの、使用価値は、資産の継続的使用と使用後の処分によって生じると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値をそれぞれ表す。割引前キャッシュ・フローで算定した使用価値と帳簿価額を比べることで、減損の存在が相当程度に確実かどうかを判断しているのである。

 これに対し、IFRSではただちに「割引後キャッシュ・フロー」で算定した使用価値と帳簿価額を比較する。割引後キャッシュ・フローは、将来キャッシュ・フローを割り引いて現在価値として集計したものをいう。

 割引前キャッシュ・フローに基づく使用価値が帳簿価額を少しだけ上回っているようなケースでは、割引後キャッシュ・フローに基づく使用価値は帳簿価額を下回る可能性が高い。日本基準では、こうした場合に減損損失を計上する必要はない。しかし、IFRSでは減損損失の計上が必要となるケースがあると考えられる。

 さらに、割引率が高い、あるいは残存耐用年数が長いといった場合には、割引前キャッシュ・フローと割引後キャッシュ・フローの乖離(かいり)が大きくなる。このため、日本基準では減損が不要でも、IFRSでは減損が必要となるケースがさらに増えることになる。つまり、IFRSでは日本基準よりも減損損失が発生しやすいといえる。