「ITエンジニアは35歳が定年なんて言われているが、本当なのだろうか?」、「自分が勉強した技術が時代遅れになったらどうしよう?」――こうしたキャリアの不安を持つ若いエンジニアは多いのではないだろうか。

 実際、IPA(情報処理推進機構)が毎年発行している「IT人材白書」の2009年版の調査では、IT関連の業種は、他の業種に比べ「将来の自分のキャリアが不安」と考える比率が高いことが明らかになっている(図1)。

図1●「将来の自分のキャリアが不安」と思うかどうか。
図1●「将来の自分のキャリアが不安」と思うかどうか。
出典:IT人材白書 2009
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 ITエンジニアのキャリアの不安を解消するために実施されたのが、経済産業省の「IT人材職種別モデルキャリア開発計画策定事業」である。

 この事業では、ITエンジニアの職種とスキルを体系化した「ITスキル標準」が定義する9職種について、トップレベルのエンジニア90人(1職種あたり10人)にインタビューを実施。インタビューに基づいて、職種ごとの標準的な「モデルキャリアパス」と、キャリアアップのためのポイントをまとめた(成果は、Webサイトに公開)。若いITエンジニアが安心して仕事を続けていくことができる指針を示すことが狙いだ。

 本連載では、この成果に基づいて、各職種の標準的なモデルキャリアパスとはどんなものなのか、どのようにキャリアアップしていけばいいのかを、分かりやすく紹介していく。今の職種で、これからキャリアアップしていこうと考えているITエンジニアはもちろん、これからITエンジニアとして仕事を始めようとしている人やキャリアチェンジを検討している人にとっても、きっと参考になるはずだ。第1回目の今回は、ITスペシャリストを取り上げる。

10年目から、技術領域の拡大・転換に取り組む

 ITスペシャリストとは、プラットフォームやセキュリティ、ネットワーク、データベースなどの専門技術を活用して、システム基盤の設計・構築・導入を手がけるエンジニアを指す。簡単に言うと、特定技術の専門家だ。

 このITスペシャリストの「モデルキャリアパス」を図2に示す。これは、トップレベルのITスペシャリスト10人のインタビューに基づいて作成したものである。

図2●ITスペシャリストのモデルキャリアパス
図2●ITスペシャリストのモデルキャリアパス
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 図に示すように、入社して1~5年めは、業務遂行を通じて、ある特定分野の専門性を身につける(専門性の確立)。次の6~10年めは、開発業務で顧客から専門性が評価されることで、ITスペシャリストとしての自信をつけていく(現場での活躍)。この時期に、失敗、成功を含めて現場経験を重ねることで、ITスペシャリストとしての専門的なスキルを高めていく。

 10年目以降40歳くらいまでは、これまでの専門領域に加え、新しい専門領域に挑戦したり、専門領域の範囲を拡大する(技術領域の拡大・転換)。このように、スキルの幅を広げることで、大きな環境の変化にも対応できるようになる。

 40歳以降は、大規模で重要なプロジェクトの設計・実装を主導し始めるとともに、標準化活動や大学など様々なコミュニティで人脈を拡大。最終的に、業界内で名の通った専門家となる---。これが、トップレベルのITスペシャリストの標準的なキャリアアップのステップである。