事実・データを集積するだけでは、組織を動かすためにはまだ足りない。現場から「どうせ当てにならない」「勘のほうが当たっている」と思われたら誰にも見てもらえなくなる。情報から導ける機械的予測方法と、人間の目を必要とする予測方法の長所短所を見極めつつ、信頼感の高い情報へと「磨き上げる」手法の確立が必要だ。

 2009年11月下旬。総合ディスカウントストア、ミスターマックス橋本店(福岡市)の日用品売り場は、競合店に先駆けて年末に備えた。例年、年末が近づくと大掃除や買い替えの需要によって住居用洗剤や歯ブラシ、歯磨き、芳香剤といった商品の売り上げが伸びる。これらの商品が前週までと比べて大量に陳列された。11月下旬からの売り場のこの変化は例年以上に早い立ち上げだった。

 「歯ブラシや芳香剤の売り上げは前年同期と比べて1.5~1.6倍に達した」と同店の鍛冶谷聡店長は成果を話す。同社が自信を持って年末商戦を前倒しして展開できたのは、2009年8月末に全42店舗で稼働させた商品管理システム「カテゴリー・プロフィット・マネジメント(CPM)」の需要予測機能を活用したからだ。

欠品を半減、在庫を1割減

CPMの需要予測に基づき、例年よりも前倒しで日用品の年末商戦を立ち上げたミスターマックスの店舗
図1●CPMの需要予測に基づき、例年よりも前倒しで日用品の年末商戦を立ち上げたミスターマックスの店舗
(写真:林田 大輔)
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発注の精度が向上し、バックヤードの在庫も削減された
図2●発注の精度が向上し、バックヤードの在庫も削減された
(写真:林田 大輔)
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 同システムを導入した最大の狙いは、全店での欠品防止と、在庫削減の両立だ。季節要因や過去の販売実績、特売セールの有無、土日祝日か平日かといった売れ行きに影響する様々な情報を活用し、今後の需要を予測する。そのうえで店ごとの適正な基準在庫や棚割りなどを算出する。

 「そのデータに基づいて発注を完全に自動化することで、欠品による販売機会ロスや過剰在庫を防いでいる」。ミスターマックスでCIO(最高情報責任者)の役割を担う杉本定士取締役執行役員サプライ・チェーン・マネジメント本部長兼物流部長はこう説明する。同システムの導入に当たっては日本IBMとIBMビジネスコンサルティングサービスの支援を得た。商品を訴求したいときはスケール感を出して大量陳列するなど、状況に応じて基準在庫の設定を最適化する機能も備えている。

 成果は導入直後から表れ、欠品が半減し、在庫数量が1割減った。期待したような精度で需要予測ができている。商品ごとの基準在庫の設定や売れ行きの予測を基に、東西2カ所の物流センターからの配送方法や頻度の見直しも実施した。

 冒頭の歯ブラシや芳香剤の売り場の増強は、本部の発注担当者や店舗従業員の肌感覚によるものではなく、同システムの需要予測のデータに基づいて決定されたものだ。従業員が思うよりも早い時点から商品が動き始めることが判明した。

将来的には店舗発の需要創出も

 もちろん、年末に伸びる商品は、春の進学・進級の時期などと同様、本部や店舗でも季節商品としてこれまで認識していた。だが、「どの時点から売れ行きが伸び始めるのか」を過去のデータを見ながら人が分析するのでは手間がかかる。しかも、過去に特売セールを実施していたか、いなかったかといった情報まで考慮したうえで人手で分析するには膨大な作業が必要だ。

CPMの導入を指揮した杉本定士取締役執行役員サプライ・チェーン・マネジメント本部長兼物流部長
CPMの導入を指揮した杉本定士取締役執行役員サプライ・チェーン・マネジメント本部長兼物流部長
(写真:林田 大輔)

 精度の高い需要予測の成果はそれだけではない。鍛冶谷店長は「以前はバックヤードに在庫が積み重なっていたが、今では夕方から夜にかけて納品された商品はほぼ、翌朝までに店頭に出せるようになった」と店舗運営面の変化を語る。「今回のシステム導入は全社最適のサプライチェーン改革につながった」と杉本取締役も胸を張る。情報の精度を「磨き上げる」ことで、取引先から物流センター、店舗までのサプライチェーン全体で業務を効率化したわけだ。

 成果は業績の数字にも表れている。不況が長引く環境にありながら、ミスターマックスはCPMの導入に伴い、全店の既存店売上高が2009年8~12月に前年同期比105.6%で推移した。