「コンビニエンスストアのあるべき姿は、ITを中心とした仕組み産業だ。これまで小売業が進めてきた現場任せの仮説・検証では、社会の変化に機敏に対応して需要をつかんでいくことはできない」--。ローソンの新浪剛史代表取締役社長CEO(最高経営責任者)は、こう語る。そして2010年、新体制を本格始動させた。市場の変化に俊敏に対応する情報活用組織に変わるべく、IT活用を軸にした変革を進める。

 ローソンは2009年3月、「PRiSM(プリズム)」と呼ぶ全社業務改革活動に着手した。PRiSM構想の下で2010年2月の全店稼働を目指し、約400億円を投じてPOS(販売時点情報管理)システムの入れ替えなどのIT投資を進めている。

 ただし、IT投資は表面的な変化にすぎない。PRiSMの本質は、「現場任せの仮説・検証」から、「本部・加盟店が一体となった戦略的な情報活用」への変化にある。そして、この変化を可能にしているのが、会員数1080万人(2009年11月末時点)の会員カード「マイローソンポイント」「ローソンパス」で得られるユニークデータ(顧客の個人情報とひも付けされた販売データ)である。

 なぜユニークデータが必要なのか。その背景の1つとして新浪社長が挙げるのが、現在進みつつある急激な少子高齢化だ。

ローソン代表取締役社長CEOの新浪 剛史氏
ローソン代表取締役社長CEOの新浪 剛史氏
1959年1月生まれ。1981年三菱商事入社。2000年4月同社ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。ローソン顧問を経て02年5月から代表取締役社長(写真:稲垣純也)

 「日本の人口はこれから確実に減り、高齢者が増えていきます。遠くまで出かけて買い物するよりも、近くに行くという行動パターンに変わるでしょう。若者向けのコンビニから、高齢者の方々にも喜んでいただけるコンビニにしたい。このことをずっと考えてきました。少子高齢化は、我々にとってはチャンスです」

 すなわち、過去の経験則や思い込みが入り込みがちな現場任せのデータ活用では、少子高齢化による市場の変化に追従できず、新たな需要を取りこぼす恐れがあるというのだ。そこで、店舗ごとの来店客の年代層の分布を正確に見極め、それに応じて本部から店作りを提案していく。これがローソンが目指す戦略的情報活用の姿である。

 「従来のPOSデータに頼った仮説・検証は、今来店している20代から40代の男性を中心としています。あくまで限られた範囲での仮説なんです」

 従来も顧客層を意識しなかったわけではない。コンビニ各社では店員がレジを打つ際、見た目で年代を判断して入力させていた。

店頭で入力する年代データは6割が間違い

 「レジで打たれる年代キーは6割が間違っています。(レジ担当者が顧客を見た目で判断すると)40代も50代も一緒になってしまいます」

 ローソンの店舗でも、ポイントカードを提示した客かどうかにかかわらず、見た目で店員に年代キーを入力させる。その結果、実に6割が誤りであると判明したというのだ。カードからユニークデータを入手できる効用は計り知れない。「コンビニには若年層しか来ない」といった思い込みも排除できる。

 「従来のローソンのITはというと、やはり先行企業のやり方をそのまま持ってきたのです。仮説を立てるときには、必ず過去の体験や思い込みが入ります。そこを取り払わなきゃ駄目でしょう。もうそれぐらい、お客さんが変化しているんです。この思い込みを取り払うために、PRiSMではデータ分析を専門とする部署を作りました」

 ローソンは現場任せの仮説・検証で品ぞろえをする従来の「勝ちパターン」の限界に気づき、新たな仕組みへと脱皮を図っているのだ。