「情報を活かす組織」を作るうえで、よくある疑問について、先進企業の事例を基に解決策を探った。必ずしも高度なシステムを導入しなくても、人作りや仕組み作り、体制作りなどの工夫によって情報活用力は強化できる。

Q1:生きた情報をどう集めるか?
A1:情報収集専任チームを組織化

 営業担当者に個々に店頭情報を入力してもらうのは負担感が伴う。そこで、情報収集担当者だけを切り離して組織化している例がある。スナック菓子大手のカルビー(東京都北区)は、売り場での情報収集に専念する「ゾーンセールス」と呼ぶ担当者を、全国各地に約220人配置している。女性のパート従業員が主体だ。

 ゾーンセールスは専用ソフトを搭載した携帯電話を持ってスーパーなどの小売店を1日5~6店巡回し、ポテトチップスなどの商品のバーコードと製造年月日、売価などを入力する。製造年月日からは、店頭在庫の滞留度合いが分かる。売価の推移から市場の状況を見極めるなど、情報活用の狙いはほぼエフピコ(34ページ)と同じだ。

 違うのは、ゾーンセールスの報告は携帯電話だけで行えるようにして情報収集作業の負荷を軽くしている点だ。カルビーでは、顧客の声(VOC=ボイス・オブ・カスタマー)と合わせて、ゾーンセールスの気づき情報を「VOZ=ボイス・オブ・ゾーンセールス」と呼んで重視している。

 ゾーンセールスが携帯電話から電話をかけると、那覇市にある「沖縄コミュニケーションプレイス」につながる。同所は2006年に設置され、約40人が営業支援機能を担う。ゾーンセールスが気づいたことを携帯電話で話せば、沖縄で担当者が情報システムに入力。この情報を内容に応じてブランド担当者や小売店営業担当者などにフィードバックする。

 ゾーンセールスが「競合商品のパッケージに比べて自社商品が目立たない」「白いパッケージがくすんで見える」と話せば、沖縄でこれを入力する。当該商品の担当者はVOCとVOZを合わせて検索できる。

 「店長が『商品Aの販売を打ち切りたい』と漏らしていた」など緊急性の高い情報がもたらされることもある。この場合は、即座にその小売店の担当者に知らせて対策を打つ。

 沖縄の担当者から定性情報を能動的に質問するケースもある。例えば、2009年に「かっぱえびせん紀州の梅」を発売した時、ブランド担当者は特に近畿地方でどの程度新商品が浸透しているかを知りたがっていた。ブランド担当者は事前に「競合他社の類似商品の価格設定はどうか」「梅の風味をアピールしたパッケージの意図が店頭で伝わっているか」などの質問を沖縄に伝えておき、VOZを集めた。ブランド担当者はこれによって、既存商品より付加価値があることがうまく浸透していることを確認できたという。

Q2:会員情報を需要創造につなげるには?
A2:大まかな顧客像を分類・定義

 山梨県内で食品・衣料品スーパー36店をドミナント展開しているオギノ(甲府市)は、データ分析を基にした販促や売り場作りに定評がある。オギノが分析対象とするのはPOS(販売時点情報管理)レジのレシート明細情報だ。ポイントカード会員による売上高比率が全体の95%に上るので、顧客の顔が見えるユニークデータを分析できる。

 オギノは様々な分析手法を駆使しているかといえば、実際はそうでもない。原則として「クラスター分析(サンプルの類似度によって、顧客の好みを幾つかのグループに分ける分析)」「併売分析(バスケット分析)」の2つしか使っていない。石原みどり食品部総括マネジャーは「ほかの手法も試したが、複雑すぎる分析は店長や仕入れ部門にとって納得感に欠ける」と語る。

 同社のクラスター分析では購買商品に基づいて「健康重視系」「子育て家族系」など約30のクラスターに顧客を分類した。顧客のライフスタイルをあぶり出し、個々のクラスターを定義するため、「野菜ジュースを買っている人」「青汁を買っている人」など類似の商品購買傾向がある人同士の相関分析を行う。分析は高度だが、クラスターの分類結果は、「健康重視系」など現場の誰もが納得できるものになっている。

鍋の素の種類によって売り場を変える

図●オギノ双葉店の売り場
図●オギノ双葉店の売り場の例
クラスター分析を駆使し、核家族世帯に狙いを絞って少量パックを大量陳列した
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 オギノはクラスター分析に基づき、毎月1~2店舗のペースで売り場の改装を進めている。2009年7月に改装したばかりの双葉店(甲斐市)の店内には特徴がよく表れている()。

 例えば、魚介類売り場の脇には2人前用で1袋99円の鍋の素パックがずらりと並んでいる。双葉店の来店客には高齢者や若年層の核家族のクラスターが多いことが、2人前用の少量パックを重点的に陳列している理由だ。大型店である双葉店で本来、主役になるはずの4人用パックは目立たない場所に置いた。

 ここには「併売分析」の結果も反映している。魚介類と「キムチ鍋の素」「寄せ鍋の素」が一緒に売れるケースが多いことに着目し、魚介類売り場の脇に鍋の素を並べたわけだ。ウインナー売り場には「トマト鍋の素」を、キャベツ売り場には「カレー鍋の素」を並べるという徹底ぶりだ。この施策で、鍋の素カテゴリーの売り上げは前年比4割増になった。

 ただし、「併売分析を活かせるかどうかは、結果を読む人の経験に左右される」(石原総括マネジャー)と言う。例えば、鍋の素との併売は、分析上は卵や牛乳などが多い。だからと言って卵と鍋の素を一緒に並べても無意味。そもそも、卵はあらゆる商品との併売率が高いからだ。

 そこで、オギノは2009年から商品部の週次会議で併売分析の読み合わせをしている。情報を見る目を養って商品政策に反映させるためだ。