「情報を活かす組織」を作るには、まず活かすための情報を収集する必要がある。販売実績・利益・在庫などの過去の情報だけでは、「需要を創る」ためには不十分だ。能動的に現場に情報を取りに行き、需要を創るための根拠を「選り抜く」工夫が求められる。

 広島県福山市に本社を構える食品用トレー製造大手のエフピコは、知る人ぞ知る優良企業だ。この分野で国内シェア26%(同社調べ)と他社を引き離す。個人消費の低迷にもかかわらず、2009年3月期は連結売上高1282億円、同経常利益92億円といずれも過去最高だった。2010年3月期は、売上高は微減するものの、経常利益は前期比29%増の120億円を見込む。プラスチックトレーという差異化が難しい商品で価格競争に巻き込まれずに着実に利益を確保している。

 エフピコが扱う食品トレーは、1個1~10円程度だ。販売先はスーパーやコンビニエンスストアなどの小売業で、総菜などの盛り付けに使用され、最終的に消費者の手に届く。個人消費の低迷が続き、「298円弁当」など格安商品でしのぎを削るなか、小売業はトレーにかけるコストを少しでも抑えて利幅を取りたいと考えている。エフピコにはこれに応じた原価低減が求められる。

需要予測のズレを見張る専任組織

 その一方で、エフピコの食品トレーは絶対に欠品が許されない。これが効率化の大きな障壁だった。食品トレーが欠品すれば、小売店は仕入れた食材を売れないという機会損失を被り、エフピコは信用を失う。受注から納品までのリードタイムはおおむね1~2日で、「今日届けてほしい」といった「リードタイム0 日」の注文もよくある。

 エフピコの安田和之取締役SCM本部長は「単純に需要を予測しようとしてもまず当たらない。ならば、店頭を起点にして、人が介在するエフピコ流のSCM(サプライチェーン・マネジメント)を作ろうと思った」と説明する。

 欠品防止と在庫削減を両立させる鍵は、的確な需要の“先読み”にある。エフピコが行き着いたのは、営業担当者に店頭情報を徹底的に収集させ、そこから市場変化の兆候を「選り抜く」ことだ。これを生産計画に反映すれば、ブレは少なくなる。

図●エフピコの店頭情報収集・需要予測の仕組み
図●エフピコの店頭情報収集・需要予測の仕組み
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 この前段階として、エフピコはIT投資をした。2001年までに独SAPのERP(統合基幹業務)パッケージと、米アスペンテックの需要予測ソフトを稼働させた。同時に、従来は月次だった生産計画を週次に短縮した。

 しかし、システムが過去の実績を基にはじき出す需要予測値はほとんど当たらなかった。エフピコが扱う食品トレーの需要は、「マグロが豊漁で刺身用のトレーが伸びる」「小売りチェーンAが総菜の大セールをやる」といった不測の要因の影響が大きかったのだ。

 予測値が当たらないために生産数が足りず欠品が出る。そうすると今度は営業担当者が多めに見込み注文数を入力するため、工場での生産数が過大になる。こんな状況が1年ほど続いた。「悪循環に陥り、新システムは営業担当者から全く信頼されなかった」(安田取締役)

 エフピコはここであきらめずに、机上の計算と現実のギャップを解消できないかと考えた。そこで2004年ごろに設けたのがSCM本部内の「販売計画課」だ。4人の担当者が、エフピコが扱う全5000~6000品目のうち、売れ筋の数百品目ずつを分担。システムが自動計算する2週間先、1週間先、当日の必要生産数の予測値に目を光らせる。

 豊漁やセールが続いて予測値が積み増されている、特定の小売業から大口受注が入っている、といった情報を参照しながら、予測値を人為的に調整する役割を担う。この取り組みで需要予測の精度が上がり、製品在庫は1.5カ月分だったのがおよそ1カ月分にまで減った。